愛の法則はたった一つ、だそうです
ただ傍にいれば良いのだ、ずっと離れなければそれで良いのだ、と。
誰に何を言われても、私だけはお前を手放さないから。
勿論そう言ってくれることは嬉しい。
嬉しいのだけれど、アンタの愛はいちいち重いんだよ。いつもあんなにサバサバしてるくせに。
自惚れるような言い方になるが、あの人は俺にだけは執着がひどい。
それを嫌だと思ったことは一度も無いし、寧ろそんなことを言う割には好きにさせてくれていると思うけれど。
『何処へ迷っても良い、けれど絶対に私の所にだけは帰って来い』
言葉だけ。それなのに、帰らなければと思うのは何故だろう。こんならしくもないことで悩むのは誰のせいだ馬鹿。
「三之助、冷えるぞ」
「分かってる」
冬の夜の廊下は至極寒い。当然だ、冷気を遮るものなど無いのだから。
「待ってても帰って来ないもんは来ない」
「でも待ってる」
「……勝手にしろ」
す、と背後で障子が閉じた。
わがままな俺を心配してくれてありがとう、作兵衛。でも、待ってるって言ったから。
「七松先輩」
六年生の帰還日は、昨日の筈だった。
「三之助、三之助」
肩を誰かが揺すった。大きな手。同学年の友人達のそれとは違う、節くれだった手。
覚えのある感触に飛んでいた意識が急に戻って来る。
「三之助、起きろ。こんなところで寝ていては死んでしまうぞ」
「……っ七松先輩!」
「ああ私だ、三之助」
あっけらかんと笑うその姿は見まごうことなくここ数日ずっと身を案じていたその人のもので、俺は嬉しいのかほっとしたのか泣きたいのかもう分からなくて顔が歪んだ。
何を言いたかったんだっけ。思い出せない。いや、たくさんありすぎてどれから言ったら良いのか分からない。
「馬鹿ですか貴方は!どんだけかかってんですか!」
「帰ってきて早々初めての三之助からの説教とは、私も運が良いな!」
「ふざけないで下さい!俺がどんだけ心配したと……!」
「三之助」
久しぶりに見た七松先輩の姿は夜闇にも分かるくらいに泥で汚れていて、すぐさま俺の所に来てくれたというのは分かる。
血の匂いはしないからきっと怪我があったとしてもたいしたことは無いだろう。
けれど。いくら実習とは言え六年生のそれともなれば相当の難度だろうし、帰還予定日に帰ってこなければもしやを想像してしまう。
「三之助、泣くな」
「誰のせいだと……っ」
「三之助、私は最初に言っただろう?」
私の傍にいれば良い、ずっと離れるな。
お前に帰って来いと言ったのは私だ。
だからこそ、私がお前の帰る場所にいなきゃいけない。
「お前をおいて一人で死ぬわけがないだろう」
「何かっこつけてんですか……」
「そりゃお前の前ではかっこつけたいさ」
私の居場所がお前の帰る場所であるならば、絶対に私はお前のために在り続けるから。
迷って道が分からなくなったら何処までだって探してやろう。
だから、ちゃんと、私の所に帰ってこい。
「じゃあ、絶対に先輩も俺の所に帰ってきてください」
ずっとあんた一人だけを待ってるから。
「ああ、約束だな」
「俺、ちゃんと待てました」
「ああ、私もちゃんと帰ってきた」
私と貴方の愛の法則はたった一つです。
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こへ次企画「恋あり!」様へ提出。
これは七松……なのか……?
企画参加させていただきありがとうございました!
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