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太郎くん
4

学校に着いた俺と太郎くんは、一旦荷物を置くために寮に寄った。俺たちの部屋は同じ3階にあるが距離は少し離れている。

久しぶりに戻る部屋に会長が居るかもしれないと、内心怯えていた俺を気遣い太郎くんは俺の部屋まで着いてくと言ってくれた。

勿論、学生寮なので俺たち以外にも沢山生徒が居るわけで…部屋に着くまでに何人もの男子とすれ違う。太郎くんを目にした彼らの反応はどれも同じだ。顔を真っ赤に染め、声を上げることもせずただボーッと見惚れる。

太郎くんは、顔やスタイルが完璧なだけではない。華やかで、見た人を一瞬で夢中にさせるようなオーラがある。しかしそれと同時に、どこか近寄りがたい雰囲気も併せ持っている。多分、整いすぎててちょっと怖い感じがするんだろうな。

何だかいつも以上に、部屋までの廊下が長く感じた。ようやく部屋に着くと俺はカードキーでロックを解除し扉を開ける。室内に人の気配が無いことを知ると心底ホッとした。

「良かった…会長居ないみたい」
「ふうん。なあ、幸治の部屋見して」
「良いけど、別に普通だよ」

興味津々な様子の太郎くんを部屋に上げる。部屋には共有スペースであるリビング、簡易なキッチン、バストイレ、そして狭いけれど個人の寝室もある。
リビングを突っ切って自分の寝室に太郎くんを案内すると、彼はベッドに腰掛けて部屋の中を見回した。

「へえ。こんな感じなんだ」
「狭いから、ベッドと机だけでいっぱいいっぱい。あ、でも一応クローゼットも付いてるよ」

まだ始業式まで一時間以上あるし、少しだけ洋服を仕舞おうかなと思い俺はクローゼットを開けた。すると太郎くんはベッドから腰を上げ俺の横に立ち、これまたやけに興味深そうにクローゼットの中を覗き込んだ。

「あれ?」
「どうした?」

実家に持ち帰っていた下着を収納しようと思いクローゼットの中にある棚の引き出しを開けた。その時、ふと違和感を覚える。思わず声に出すと、すかさず太郎くんが問いかけてくる。

「気のせいかな…なんか、パンツが減ってる気が…」
「は?」
「青いストライプのやつと、市松模様のやつが無い…?なんで?」

別に全ての柄とか枚数をはっきり覚えている訳ではない。しかし、特にお気に入りでよく履いている2枚が無くなっていたのですぐに気が付いた。  
実家にも持ち帰っていないし、今履いている訳でもない。
何故、見当たらないのか。

「うっかり何処かで無くしたのかなあ」
「…ぶっ殺してぇ」
「へ?」

何か心当たりがないかと思案する俺の隣で、太郎くんが低い声で非常に物騒な事を呟いた。俺は思わずビクリと肩を揺らす。
え、今の俺に言ったんじゃないよね?
若干怯える俺を他所に、太郎くんはさっさと寝室を出ていってしまった。慌てて後を追う。

すると、とんでもない光景が目に飛び込んできた。

「た、太郎くん何してんの!!?」
「…チッ、厳重にカギ付けやがって」

なんと太郎くんは、会長の個室のドアノブを掴みがちゃがちゃと乱暴に開けようとしていた。しかし、太郎くんの言う通り会長は個人的にドアにカギを付けているので(多分校則違反だけど会長だから黙認されてるのかも)開けることが出来ない。

「止めろよ太郎くん!やばいって!」
「…何となく、感づいたかも」
「何が?」
「…何でもない。あ、俺も荷物置きたいから自分の部屋行く。幸治も着いてきて」
「うん」

太郎くんの突然の奇行に若干引きながらも俺は素直に頷いて、2人で太郎くんの部屋に向かった。
相変わらず、俺たちとすれ違う生徒は皆一様に太郎くんを見て頬を染めている。

俺はそんな様子を見て、どうだ俺の幼馴染みはカッコいいだろう。お前たちが夢中になってる会長様よりずっとずっと素敵だろ。と少し得意気になる反面、何だか不安にもなってきた。

太郎くんはきっとモテモテになるんだろうな。告白とかも、いっぱいされるだろう。
当たり前だけど、想像すると少しだけモヤモヤとした。

「幸治?」

俺が浮かない顔をしていたことに、いち早く気付いて声をかけてくれた太郎くん。
太郎くんはいつもそうだ。俺が落ち込んでいたり、怖がっていたりした時は口に出さずともすぐに気付いてくれる。

「太郎くん、あの…」
「ん、ちょっと待って。部屋入ろう」

俺がぐるぐると考え込んでいる間に太郎くんの部屋に着いていたようだ。鍵を開けて、中へと入る。
太郎くんの部屋自体はみんなと同じ2人部屋だが同室者はいないらしく、何とこの広い部屋に1人で過ごせるらしい。羨まし過ぎる。

「幸治、座って」
「あ…、うん」

促されるまま、リビングに元々置いてあるソファーに腰かけると太郎くんも俺の隣に座る。

「さっき、何考え込んでたの?会長のこと?」
「えっと…そうじゃなくて」
「何、言ってみ?」

ただの幼馴染みのくせに口出しするなとか、うざいなとか思われないかな…と、少し口ごもる。しかし、太郎くんがめちゃくちゃ優しい声で聞いてくるから、俺はゆっくりと口を開いた。

「太郎くん、人気出るだろうなって思って。そう思ったら、なんか…」
「なんか…?」
「嫌だなって…」
「何で嫌なの?」

がしり、と強く肩を掴まれ驚く。太郎くんの眼差しは酷く真剣だ。

「何で…だろう。あ、人気が出て…もし恋人が出来たら嫌なのかも」
「何で?」 
「…太郎くん何?どうしたの?」
「良いから答えて。何で俺に恋人が出来たら嫌なの?」
「それは…、太郎くんが取られたら嫌だから…?」

俺がそういうと、太郎くんは一瞬驚いたように目を見開き。そして、蕩けるような笑顔を浮かべた。

「お前、それさ…自分で何言ってるか解ってる?」
「え?」
「あー…もう、可愛いな。それさ、まるで俺に恋してるみたいじゃん?」
「こい…、って、恋?!俺が、太郎くんに?」
「なあ、そう思わない?」
「わ、わかんないっ…俺、恋なんてしたことないし…」
 
太郎くんから突然言い放たれた言葉に、どくりと心臓が跳ねた。そんなこと、これまで全く意識をしたことがなかった。

「俺が、時々抱き締めたり…キスしたりする時、嫌だったりする?」
「嫌じゃ…ない」
「幸治、好きだよ」
「え?うん、俺も好きだよ」
「俺は幸治に恋してる。そういう好きなんだけど」
「え!?」
「幸治は?」

好きって、太郎くんにこれまで何度も言われたことがある。そういう意味だったの?
う、わー…太郎くんが?あの太郎くんが俺なんかを好きなの?
って、どうしよう。意識したら凄いドキドキしてきた…。

「言ってよ、幸治はどうなの?」
「し、知らない!」
「キスされても嫌じゃないんだろ?それに、俺にそういう意味で好きって言われて…ドキドキしてない?」

とん、と俺の胸の辺りに手のひらを当てて、笑顔で首を傾げた太郎くんに益々心臓が高鳴った。
やばい、かっこ良すぎる。てゆうか可愛い。何だこれ。

「幸治、俺のこと好き?」
「うう…」
「好きだろ?言えよ」
「好き…かも?だって、すごいドキドキする」
「嬉しい。俺は、ずっとずっとお前のこと好きだったよ。それこそ幼稚園に居るときから」
「嘘…!?」

そんな昔から!?

「嘘じゃねえよ、俺はずっと一途にお前のことが好きなんだから」
「へー…」
「てゆうか、すげえ露骨に態度に出してたつもりなんだけど」
「へー…」
「へー…じゃねえよ。何、照れてんの?顔真っ赤になってる」
 
太郎くんの、少し冷んやりとした指先で火照った頬を軽くつねられる。心がむずむずして、何だか切ない気持ちになった。これが恋なのか?

「幸治、付き合おっか」
「恋人同士になるってこと?」
「なろうよ。他の奴に取られたくないんだろ?俺のこと、お前のものにしてよ」
「…その言い方、ずるいよ」
「駄目?」
「う…、駄目、じゃない。よろしくお願いします」
「やった。こちらこそ、よろしく」

まだまだ頭のなかは混乱しっぱなしだけど。えっと、最高にかっこ良い幼馴染みが、恋人になったみたいです。

「幸治…大好き」
「んっ…」

ゆっくりと太郎くんの顔が近付いてきたかと思うと、柔らかな唇が俺のそれと重なった。どうしてか解らないけど、少しだけ泣きそうになった。


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あきゅろす。
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