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太郎くん
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一体、いつまで続くのだろう。

殴られ、蹴られた腹がズキズキと鈍く痛む。この学校の生徒会長、前澤は俺を見下ろしてケラケラと楽しげに笑った。学校1の美形だと持て囃されている綺麗な顔を歪めた生徒会長はもう一度俺の脇腹を蹴ってから、部屋を出ていく。

俺、東山 幸治(とうやま ゆきはる)は昔から人付き合いが苦手だ。気弱で、おどおどしていて、それに地味な顔立ちとヒョロイ体つきが加われば、それは周りにとって「格好のイジメ対象」他無かった。

それでも中学までは、酷いイジメはされなかった。
理由は…幼なじみの太郎くんがいつも傍にいてくれたから。太郎くんは、その凡庸な名前(今となっては逆に珍しいのかもしれないけど)とは裏腹に、昔から色々と派手な人だった。

それはまず、どの角度から見ても最高に美しい造形をした顔立ちだったり、その均等の取れた美しい体付きや長身だったり、傍若無人な態度だったりする。

太郎くんはそんじょそこらの芸能人やモデルなんて目じゃない程に綺麗な顔をしている。
切れ長な二重の目はまつ毛が長くて、左の目尻にあるホクロが色っぽい。すっと通った鼻筋に、形よい唇。そのパーツの大きさも、位置も何もかも完璧。耳にいくつも開けられているピアスは痛そうだけれど彼に似合っていてカッコ良い。青みがかった黒髪で長めの前髪を左に流し、サイドは元から若干外ハネ気味なクセで自然なままでもかっこ良く決まっている。180センチという長身で、スラリと細身だが意外としっかり筋肉が付いていて、いわゆる細マッチョ。

派手なのは外見だけではない。太郎くんは昔からすごく運動神経が良くて、そして喧嘩がめちゃくちゃ強かった。別に太郎くんから他人に突っ掛かったり、喧嘩を売ることはないのだけれど、太郎くんはとにかく見た目が派手なのでよく絡まれた。太郎くんはそれらをカンプなきまでに打ちのめした。気付いたら太郎くんの周りには舎弟のような人たちがワラワラと集まり、太郎くんは何故か不良グループの総長に昇り詰めていた(太郎くん非公認)

そんな太郎くんが、常に隣に居たのだ。当然俺をいじめるような奴は居なかった。

太郎くんの両親と俺の両親は、僕らが生まれる前からずっと仲良しで、太郎くんと俺は本当に幼い頃から一緒で…ひ弱でおどおどしている俺を、太郎くんは1度もいじめたりせず常に近くに居てくれた。

そう、今までは知らず知らずのうちに太郎くんという存在に守られていたんだ。

だけど、高校進学を期に俺と太郎くんは離れ離れになってしまった。今まで幼稚園も小学校も中学校も一緒だったのに、俺と太郎くんは別々の高校へと進学した。

…本当は、同じ高校に入るつもりだった。けれど、太郎くんだけが入試に受かって俺は落ちてしまったのだ。
俺は第二希望である私立の男子校に進学することになった。

それが地獄の始まりだったんだ。


太郎くんと離れて、俺はひとりぼっちになった。人と話すのが苦手でいつも挙動不審にしてるから、最初は話しかけてくれてた人達も徐々に離れていった。

俺はクラスの隅っこでじっとしている、空気のような存在。時々悪口とか言われたり、イジられたりはしてたけど…本格的ないじめとかは無かったから、ホッとしていたんだ…

そう思ったら、1年生の時はまだマシだった…

2年生になり、寮の部屋替えがあり…俺はヤツと同じ部屋になった。ヤツとは、前澤だ。先輩である彼は、生徒会長をやっている。うちの学校は少し…いや、かなり変で…生徒会は人気投票で選ばれ、皆がみな美形揃いだった。そしてそれぞれの役員に親衛隊…いわばファンクラブのような物が付いているのだ。

生徒会長は、生徒会の中でも…というか学校1の人気者だ。眉目秀麗、文武両道、性格はワガママで俺様だしヤリチンだけど、それがまたイイらしい…

みんな、彼をカッコいいカッコいいと言うけれど、前澤なんて太郎くんと比べたら全然カッコよくない。
俺が言うなよって話だけど…前澤のランクがAならば、太郎くんはSだ。飛び抜けて最上級ランクだ。

だから俺は、最初に前澤と会ってもあまり動揺しなかった。それが気に入らなかったのか…前澤によるイジメが始まった。前澤を敵に回すと言うことは、すなわち学校中を敵に回すと言うことだ。

俺はたちまち全生徒からの嫌われ物になった。

嫌がらせにも、誹謗嘲笑にも、耐えてきた。耐えてきたけど、前澤から与えられる暴力は本当に辛い。辛くて堪らない。
姑息なあいつは、見えるところに痕を作らない。制服を脱いだら、俺の身体中には至るところに青や紫の痣が沢山ある。

けして裕福ではないのに、両親が一生懸命働いて無理をして私立に入れてくれたのだ。そう簡単に辞めるなんて言えない。

春休み、夏休み、冬休み…長期休暇の度地元には帰っていて…太郎くんとはその度会っていた。だけど、俺がクラスで浮いていることやイジメを受けていることは言えなかった…こんな俺でも、一応プライドというものがあるのだ。
楽しい学校生活の作り話をして、太郎くんに聞かせていた俺。

だけど、もう良いかな…何だかもう、文字通り心も体もボロボロでダメになりそうで。

明日から夏休みが始まる。
俺は荷物を纏めて、汽車で3時間掛けて実家へと帰った。


汽車の中で、太郎くんに「今から帰ります。17時頃にそっちに着くよ」とメールをしたら、「駅まで迎えに行く」ってお返事をくれた。

「幸治」
「あ…、太郎くん」

汽車を降りて改札を抜け、キョロキョロと辺りを見回していたら耳に心地好い声が俺の名前を呼んだ。太郎くんだ。

太郎くんはどこに行っても注目を集める。ああもう、そんな笑顔を浮かべたらダメだよ。きっと、今ここに居る人達は一瞬で太郎くんのことを好きになったに違いない。

「おかえり、幸治」
「ただいま」

ぎゅうっと俺のことを抱き締めた太郎くんは、俺にキスをしようとしてきた。こんな人混みでとんでもない、俺は慌てて顔を背ける。太郎くんは少しムッとした表情。

太郎くんは昔からスキンシップが激しい。ハグやキスは当たり前のようにしてくる。あまりにも自然なのだから、俺はそれが友達同士ではごく当たり前のことなのだと思っていた。だって太郎くん以外友達居ないし、比べたりも出来ない。最近になって、ちょっとおかしいということに気づき始めた。

「荷物持ってやるよ」
「え、いいよ…」
「良いから貸せ」

太郎くんは、世話焼きな人だ。俺がのろまだからだろうけど、昔から身の回りの世話を沢山してくれる。高校に入ってから、1人でやんなきゃなんないことばかりで…毎日てんやわんやだ。


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あきゅろす。
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