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50000hit企画
からくてあまい(男前平凡×乙男不良)

「だいじょぶか?」

帰り道、近道をするため裏門に向かう途中。校舎の壁に寄りかかって、しゃがみ込み俯いているやつがいた。金髪に、着崩した制服。なんか不良っぽいなあ。

具合でも悪いんかなと思い、近寄って声を掛けるとそいつは、ゆっくりと顔を上げた。

…びっくり。すっげー整った顔してんの。

でも、殴られでもしたのか唇の端が切れて血が出ている。よく見ると額も少し切れているようで、血が滲んでいた。

「うわ痛そう」
「…誰だテメエ」

金色の、長めの前髪の隙間から物凄く睨まれた。

「ケガなんかして勿体ねえな、お前すっげーイケメンなのに」
「は?」

きょとんとする不良くんを尻目に、俺は自分のカバンをゴソゴソと漁る。幼稚園児の弟が居るもんで、常に絆創膏は入れてあるんだよ。お、発見。ついでにハンカチも。

「こっち向いてー」
「ちょ、何しやがる…!」

相手の肩を押さえて、まだ乾いていない血を優しく拭う。不良くんは最初はかなり嫌そうな顔をして避けようとしていたが、肩を掴む力を強くして逃げられないようにして黙々と続けると、そのうち大人しくなった。最後にくまさん柄の子供っぽい絆創膏を貼ってやる。

「よし」
「………」
「ケンカも良いけど、程々にしとけよー。じゃあな」
「待っ……」

満足し、ポンポンと頭を撫でるように叩いてやって立ち上がろうとしたら、腕を掴まれた。

「どした?」
「あ…その…」

心なしか少し頬を赤くして、視線を泳がせる不良くん。

「まだ他に怪我でもしたか?」

前髪をさらりと避けて顔を間近に覗き込んだら、不良くんの鼻からタラリと血が流れた。

「このハンカチやるよ。…わりい、俺もう行かねえと」
「…名前」
「ん?」
「名前、なに」
「俺?3Cの泰井(やすい)、お前は?」
「…森口。2A」
「ん、森口ね。覚えた。またな!」

少し心配だからもう少し付いててやりたいところだけど、もう弟を迎えに行かなきゃなんない時間だ。相手の手にハンカチを握らせて、立ち上がると俺は足早に学校を後にした。





翌日、教室に入るとクラスメート数人がニヤニヤしながら寄ってきた。なんだ?面白いことでもあったんか?

「泰井ー、お前女でも出来たのか?」
「は?」
「見ろよ机の上」

俺の机には、丁寧にアイロン掛けされて畳まれたハンカチと、可愛らしい花柄の巾着に入ったお弁当。このハンカチ…昨日森口に貸したやつだよな?
じゃあこの弁当は?

ハンカチは森口が返してくれたんだとしても、まさか弁当の方は森口ではないよな。でも…後で森口に聞いてみよう。

しつこく問い詰めてくる友人たちを上手くかわし、昼休みを待つことにした。



「2Aって言ってたような…」

ようやく来た昼休み。森口を探そうと2年A組の教室に来て、入り口付近に居る適当な男子に聞いてみた。

「森口知らない?」
「森口?今日は一時間目から見てないな…。あ、あいつよく屋上に居ますよ」
「そーなんか。さんきゅ」

屋上かあ。俺も1年の時はよく行ってたけど2年になった年から立ち入り禁止になったんだよなー。

まあ、あいつ見るからに不良っぽいし…立ち入り禁止とか気にしなそうだ。

そんなことを考えながら階段を登り終えて、屋上の扉前に立つ。南京錠が見事に破壊されていた。なんか流石だ。

今日は天気が良く、でも適度に涼しいという絶好の屋上日和だ。屋上の扉を開けて足を踏み入れた瞬間、爽やかな風がふわりと吹く。

「もっりぐちー、居るかー?」
「あ?」

キョロキョロと屋上を見渡してみるが、誰も見当たらない。名前を呼んでみたら、不機嫌そうな声が返ってきた。
森口は、屋上から梯子を登って更に一段高い所…貯水槽の横に座っていた。

「お。居た居た。ちょい待ち、そっち行くからー」
「えっ…」

なぜか少し焦っている様子の森口に首を傾げ、梯子に足を掛けて登る。

「ハンカチありがとな。アイロン掛けまでしなくて良かったのに。つうかあげても良かったのに、って要らないか」
「…そんなこと言うためだけに、俺を探しに来たわけ?」

森口の隣の地面にドサリと腰を下ろすが、森口はジッと体育座りをして全くこっちを見ようとしない。

「それもあんだけどさあ、この弁当のこと聞きたくて」

弁当、と口にした瞬間。森口がビクリと過剰に反応した。

「それ…食った?」
「いや、まだ…つうか俺が食って良いのかわかんないし」
「…別に、食いたくねえなら食わなくて良い。返せ」

森口が自分の膝に顔を埋めて低い声でそう言った。
返せ、ってことは。

「やっぱコレ、森口がくれたの?」
「………」
「昨日のお礼ってこと?大したことしてねえのに。でもすげえ嬉しいわ、ありがとう。食って良い?」

俺が訊くと、森口は無言で小さく頷いた。

巾着から弁当箱を取り出して、蓋を開ける。

「うわ!すげえ、超うまそう!」

二段弁当の一段目には、卵焼き、可愛らしいタコやカニに飾り切りされたウインナー、グラタン、ハート型のミニハンバーグ、ポテトサラダ、うさぎに切ったリンゴが綺麗に詰め込まれていた。二段目にはご飯の上が鶏そぼろと卵とで2色になっていて、その上にはクマの形にくりぬいた海苔が飾ってある。

「なにコレ可愛い!食うの勿体ない。でもうまそう。森口、お前の母さん料理上手いんだな」
「…違う」
「え?」

べた褒めしてたら、顔を真っ赤にした森口が小さく否定した。
そのあと、信じられないことを口にする。

「その弁当、俺が作った」


そんなまさか。

「マジで!?」
「…うるせえな…、嘘吐かねえよ」
「すげえ森口!じゃ、いただきます」

卵焼きをひとくち。
…うまっ!

「すげえうまいんだけど。森口絶対良いお嫁さん、じゃなくてお婿さんになるって。俺の家来て欲しーわ」
「…っ…うるせえな」

とか言いつつ森口はまた頬を赤くしている。可愛いやつめ。
そのあとご飯やおかずを美味しく食べていた所、森口が遠慮がちに話しかけてきた。

「…お前、引かねえの」
「なにが?」
「だから、俺みてえな可愛いげのねえ男がこんな…弁当手作りするとか…キモいとか思わねえの」
「はあ?思うわけねえだろ。つうか羨ましいっつの。イケメンで料理も出来るとかどんだけハイスペックなんだよ」

こんなやつがモテねえ訳ねえよなー。
森口を見ると、どこかホッとしたような表情を浮かべている。頬は、相変わらず赤いまま。

「あ…」
「森口?」

弁当を食べ終わり、森口がくれたペットボトルのお茶を飲んで、特に会話もなくマッタリしていた時。ふと森口が俺の手元に視線を留めて小さく声を上げた。

「ボタンが…」

森口はそう言い掛けて、しまったいう感じに口ごもった。…ボタン?あ。
ワイシャツの袖口、ボタンが取れ掛かっていた。

「このシャツ買ったばっかなのになー…」
「…直してやる」

ちょっとだけションボリしてたら、森口が俺の腕を掴んだ。そして自分の鞄から、小さなソーイングセットを取り出した。

「森口お前裁縫まで出来んの?」
「…好きなんだよ、家事とか」

危ないから動くなと言われ、慣れた手付きでボタンを付け直してくれる森口をまじまじと観察する。本当すげえやつだな。見た目は明らかに不良なのに、その辺の女子より(女子ごめん)気が利くし料理も裁縫も出来る。ギャップ半端ない。

「そんな見られると、やりにくいんだけど」
「あ、ごめん」
「…出来た」
「綺麗になった。なんかもう、何から何までありがとな」
「別に。好きでやってるんだし」
「お礼に今度なんか奢るから」
「要らない」
「でもさー、なんかお礼させてくれ」
「…じゃあ」




「可愛い…!」

森口が目をキラキラ輝かせて見つめる先には、うさぎの縫いぐるみが積まれたUFOキャッチャー。

「これ欲しいの?」
「べ、別に、そういう訳じゃ…」

モゴモゴと言葉を濁す森口。

俺がお礼をさせてくれと言ったら、森口は「一緒に出掛けたい」と口にした。だから放課後、とりあえずゲーセンに来てみた。

「取ってやるよ」
「え!」

三回目くらいでうさぎを見事手に入れることが出来た。森口に渡すとムスッとしながら受け取ってくれたけど、さっきチラリとみたらニヤニヤしてた。やっぱ欲しかったんじゃん。可愛い。

そのあと、森口が物欲しそうに見ていたのでクレープを買ってやり、これまた観たそうにしていたので子犬の癒し映画を一緒に観て。まるでデートのようなコースだが、楽しかった。

「すげえ楽しかったわ。また近い内遊ぼうな」
「…ん」

通り道だったので、森口を家まで送ってやった。

…なんか名残惜しい。

何だろう、今日1日だけで、森口のことすげえ好きになったみたいだわ俺。

森口、すげえ可愛いんだもん。

「森口」
「え」

俺は、本当に自然に、無意識に。
森口の腕を掴んで、その頬に口付けた。

「…え!なにしてんの俺!」

自分でビックリだ。まじで何してるんだ、俺。やばい、絶対ドン引きされる!

恐る恐る森口を見ると………

「森、口…?」
「…っ…馬鹿。どうせなら、口にしろよ」

ぎゅう、と先ほど取ったうさぎの縫いぐるみを抱き締めて、赤い頬と潤んだ瞳でこちらを睨み付けてくる。

なにこの甘い雰囲気。
付き合いたてのカップルかって。

しかも俺、何キュンとしてんの。
なんか未知の扉開いちゃった感じ?
わかんねえー!てゆうか森口可愛い!

「ごめん、気が利かなくて」
「ん…」

とりあえず、唇にキスをしてからゆっくり考えてみることにする。


end.



森口は初めて合った日に泰井に惚れました。
そう言えば二人とも下の名前出てない…

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あきゅろす。
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