グラデーション 2(End) 「聞いた?央くんがついに本命作ったってー!」 「悔しいー。澤木さんでしょ?相手…」 「まあ、相手があの澤木梓なら仕方ないよー…敵わないって」 学校中、この話で持ちきり。 みんなみんな、俺を楽しそうにチラチラ見ながら笑ってる。 どうしてこんなことになったんだろう。 喪失感に、目の前が真っ暗になる。 央に、恋人が出来た。 それはこの学校で一番可愛いと言われている男の子。 いつもなら、告白されても必ず断るから…央が呼び出されても気にも留めなかった。 それなのに、央は二つ返事でOKしたらしい。 信じられない。 なんで、なんで、なんで。 ずっと俺を守るって約束したのに。 いつも傍に居てくれるって… 「ごめん、由良…今日から梓と帰るから」 「成田くんごめんねー、幼なじみ取っちゃって」 由良の腕に華奢な腕を絡め、恋人の澤木梓が笑った。…笑った、馬鹿にするみたいに、勝ち誇った、優越感に満ちた顔で。自分に自信がある人しか出来ない様な、綺麗で、汚い笑顔。 学校一かっこいい央と、学校一可愛い澤木。絵に描いたようなお似合いカップルだ。 央の隣は、いつでも俺だったのに。 俺が、いつも酷いことばかり言うから? 我が儘だから? 央は真面目だから…約束を守るために嫌々俺の傍に居ただけだったんだ、きっと。 俺は、とうとう央に捨てられた… 「な…なか…ば…」 そんなの、嫌だ。 行かないで、俺の傍に居て。 「…由良?」 「央、約束しただろ、俺を守るって…!」 都合のいい時だけ「約束」を使う俺は最低だ。今まで散々拒んできたのに、いざ離れそうになったら必死になって…格好悪い… 「はあ?成田くん何言ってんの?ただの幼なじみでしょ君」 澤木が鼻で笑って、央に更に密着する。触るな、俺の央に触るな! 「央っ…行かないで!」 「ちょっと、いい加減にしなよ成田くん」 「央、ごめん…俺、ずっと…本当は」 「ふ、ふざけたこと言わないでよ!央、早く帰ろう」 「待って…梓。…由良、なに?本当は…何?」 離れないで、俺の傍に居て。 約束とか、そんなの関係なしに。 俺は可愛くもないし、素直になれないし、迷惑ばかりかけるけど。 そんな男より、ずっとずっとずっと 「央が好きだ…」 「やっと言った」 え? 一斉一代の告白の直後、ふわりと包まれる。央に、抱き締められた。 「え?え?」 「言うのが遅いよ…由良も俺のことが好きだって、ずっとわかってた」 「え、な、そんな…」 「なのにずっと素直になんないし…嫌いとか言っちゃうし、我が儘な由良は大好きだけど流石にねえ」 「ちょっと、待って…」 混乱した。だって、央は俺を捨てて澤木を選んだのに。 今にもキレた澤木が割り込んでくるかと思った。けれど、澤木をちらりと見ると、なんだか呆れたように俺たちを見ている。 …あれ?怒って、ない? 「由良がいつまでも本音を言わないから、ちょっと意地悪しようと思って」 「央は…澤木が好きなんじゃ」 「それは有り得ないよ。でもこんなことでもしないと由良、一生俺に好きって言わなそうだし…最終手段?」 なんだよ、それ。そんなのって、無いよ…。 「ってことでー、澤木、お陰で晴れて由良の気持ちを再確認出来ました」 「はいはい良かったでちゅねー、おい…約束通り学食一週間奢れよ」 「もち。じゃ、もう用無しだから帰れ、邪魔」 「勝手にやってろ馬鹿共」 二人のやり取りを、俺は黙って見ていた。 …そう言うことか。 「…けんな」 「ん?なあに由良」 ちゅ、ちゅと調子づいて俺の顔中にキスをしてくる央に殺意が沸いた。 「ふざけんな!騙しやがって!」 「いてっ、ご…ごめん由良!」 「…馬鹿、央の馬鹿」 「ごめん…もうこんな真似、しない。俺本当に、由良が好きで」 「…央は、約束があるから嫌々俺と居るんだ、って思ってた…」 「ああ、そんなの全然関係ないよ。寧ろ最近になって思い出したし」 「おい!」 それはそれでちょっとムカついた俺だった。 End. *まえへ [戻る] |