アーユーマイン?
5
「お前さ…」
「ねえ、冗談でも、嫌いなんて言わないで」
「は?いや…あの」
そう言った咲人がなんだか泣きそうな顔に見えてそれこそ俺は少し狼狽えてしまう。
「奏太、俺は」
『ご飯出来たよー!!』
階下から母さんの声が聞こえてきて、俺はビクリと肩を震わせた。なんだかいつもと少し様子の違う咲人に戸惑いつつベッドから降りる。
そういえばこいつ何か言いかけてたよな。
「俺は、何?」
「…なんでもない」
ほらまた、こうやって。咲人はすぐにはぐらかしてしまうんだ。こういうときあまりしつこく追求しようとすると段々機嫌が悪くなるのは今までの経験上わかっているからこれ以上は口を閉ざす。
リビングに入ると先ほどとは一転して笑顔になる咲人に、(ああ、いつものあいつだ)と安心した。俺は飯は食わないけど何となく咲人の隣の椅子に座る。
「いただきます」
俺の母さんは見た目にそぐわず(失礼だけど)家事が上手い、特に料理はかなり美味しい。今日は味噌汁とおひたしと揚げ出し豆腐、鰈の煮付けといった和食だ。やばい美味そう。
すると、物欲しそうに見ていた俺に気付いたのか咲人は鰈の煮付けを一欠片箸で取り俺の口元に寄せてくれた。食べたがってたのバレたのちょっと恥ずかしい。なんで分かったんだ?
「さんきゅ。あ、美味い」
「だよねー、春香さんの飯最高〜」
やめろ、母ちゃんが調子乗るだろ。
その内、ガタガタと玄関から物音がした。
「ただいま〜」
玄関にある咲人の靴に気付いたのだろう。妹の、いつもよりワントーン高い声が耳に入ってきた。自然と溜め息が出てしまう。中学校のセーラー服姿の妹がリビングに来て、やはり最初に咲人を見た。
「咲人さん、来てたんですね」
「日和ちゃん。おじゃましてます」
「ゆっくりしてって下さい」
ほんのり頬をピンクに染めた妹にゲンナリしながら席を立ち自室に戻ろうとすると咲人は食器を流し台に置いてから着いてくる。
「最近妹が冷たいんだ」
「えー、嘘。超良い子じゃんか」
「馬鹿、女には裏の顔ってのがあんだよ」
「………男にだってあるでしょ」
なんだ、今の間。
「咲人、今日泊まってく?」
明日土曜日だし。
「うん、頑張って泊まる」
「頑張るって何だ、あれか、俺の狭い部屋で嫌々ながら頑張って寝るってか?」
あはは、と笑っている咲人の目が全く笑っていないことには俺は気付いてなかった。
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