アーユーマイン?
24
「なんで…俺なんだよ」
俺は特別すごい事をしてやった訳ではない。
よくドラマなんかである、事故に遭った場面で咲人を救いだしたとかならまだわかる。
あと、痴漢から助けてもらって思わず惚れちゃう…とか。…それは違うか。
まあ、それはさておき…俺は別に、常識のある人間ならば誰でも当然にやることをやっただけだ。
わざわざ同じ学校にまで入るとか、そこまで好意を持たれる意味がわからない。あの、たった10分足らずのやり取りだけで。
「…嬉しかったんだ」
咲人が、真っ直ぐに俺の目を見て口を開いた。
俺は黙って、続く言葉を待つ。
「奏太が、誕生日おめでとうって言ってくれたこと」
咲人は泣きそうな笑顔で、何かに耐えるような震えた声で言った。
俺は、何故か声を出せないでいた。
「奏太はこんな俺に言ってくれた、顔も見えないのに、おめでとうって…笑顔で言ってくれた」
再び、咲人の頬に水が伝う。
こいつ、今日はやけに泣き虫だな。
「奏太、俺があの時、どれだけあの言葉に、笑顔に救われたか」
「…うん」
どう、言葉を返せば良いのかわからない。
あの時こいつがどういう状態だったのかなんて知る由もない。
正直わけがわからん。
ただ咲人が、嘘を言っていないということだけはわかる。
とりあえず涙を拭けと、ティッシュを顔に押し付けてやることしか出来ない。
「カナ、俺は。親に、“生まなきゃ良かった“って言われた人間なんだ」
咲人は、どこか諦めたような、へにゃりと緩んだ笑みを見せた。
「元から母親とは仲が良くなかったんだけど、ある事が起きてから本気で嫌われちゃって」
「…そんな」
「ごめん、雰囲気悪くして」
「いや…元から大して良くないけど」
カナひどい、と再び咲人が微笑んだ。
とんでもなく、綺麗。
…色々と気になることはあったのだが、相手が自分から言い出すまで深く追及するのは駄目だと思った。
咲人に何があったのかは知らない。
どうして俺に惚れたのかも。
色々事情があんのは分かる。
けれど、俺は…
咲人の想いに答えることなど出来ない。
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