アーユーマイン?
23
「えっと、誕生日おめでとう。ございます」
俺がそう告げた瞬間、相手の肩が少し揺れた気がした。顔は相変わらず窺えないけど…。
そりゃ初対面の相手にいきなりこんなこと言われたらビビるよな。
…てゆうか俺、こんな怖い人相手に何言ってんだろ。つい…。
しくじったかなあ。
「あ、すんません、その…定期に生年月日が」
「…ああ」
「図々しいっすよね。しかも、俺らタメみたいだしテンション上がっちゃって…あ、なら別に敬語じゃなくてもいいじゃん」
「……」
「…じゃあ、俺はこれで」
やべ、待ち合わせ時間過ぎた。
その場をあとにしようとした時、ぐっと腕を捕まれた。
「な、なに」
「…名前は」
俺?当たり前か。俺しか居ないよな。
「三葉奏太、近くの西中に通ってる」
「…ふうん」
おい。せっかく教えたのになんだその興味無さげな反応は。そのうっとおしい前髪引っこ抜くぞ。…そんな勇気無いけど。
「じゃ…俺急いでるから」
「うん…奏太、゛またね゛」
*
思い出した、あの日の事。
まさかあの不良が咲人だったなんて。
てゆうかさ…
「お前、よく俺の事覚えてたな」
俺は顔が見えてなかったから、入学式の日に咲人と会った時にも気が付かなかった。それからもずっと、あの日の事なんて思い出したりしなかったし。
ましてやこんな特徴の欠片もないような俺のことを覚えてたなんて。
ああ、名前を覚えてたんかな?こいつ頭良いから有り得るかも。
「いや…覚えてるも何も俺は奏太が」
「同じ高校に入るとかすげえ偶然だよな」
「…違うよ、違うんだ奏太」
さっきまでグズグズ泣いていたものだから鼻の頭と頬がちょっと赤い咲人が指先をモジモジと合わせながら俺をチラチラ見てくる。その姿はさながら、恥じらう恋する乙女。
こいつがやったら正直キモい。
「あ?何が違うんだよ」
「俺は、奏太に会うため…青高に入学したんだよ?」
「……は?」
再びフリーズした俺。
こいつ、また有り得ないことを言い出した。
…これって、ネタだよな?
そうだ俺をからかってるに違いない。
「冗談キツ…」
「冗談なんかじゃない、お、俺は奏太と同じ高校行くために…すごい、頑張った…」
…マジかよ…。ああ、頭痛くなってきた。
あんな、一瞬会っただけのやつと同じ高校行きたいとか思うか?普通。
いや、こいつは普通じゃないのか。
「お前なら余裕だったんじゃねえの?青高がいくら進学校っつても学年一位からしたら楽勝だろ」
「…俺中2まで、通知表1と2ばっかだった」
俺が今飲み物を飲んでいたら間違いなく噴き出していただろう。
開いた口が塞がらない、というのはまさしく今の俺を表す言葉だ。
「…嘘だろ」
「本当、だよ。俺、それまで授業なんてろくに出てなかったし、ダルくてテストも毎回白紙で出してた。でも、奏太に出会って、いい男にならなきゃと思って、それから毎日…1日18時間くらいは勉強した」
「なんだそれ、お前、おかしいぞ!今更ながら!」
何か怖い。
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