アーユーマイン?
22
…は?
俺は咲人の言葉に首を傾げる。
中学生の頃、だって?でも俺と咲人が初めて会ったのは高校の入学式のはずだ。
あり得ないだろ。
第一、こんなに顔面偏差値の高いやつ、一度会ったら中々忘れねえから。
俺、入学式の時思ったもん。ここまでのイケメン初めて見たわ!って。
「…どゆこと?」
「やっぱり…覚えてないか」
「ごめん、全くわかんない」
ちょっとだけ寂しそうな顔をした咲人は、自分の前髪を手櫛でとかしてから口元を手で覆った。
なんだなんだ。顔が見えねえぞ。
意図が解らず、しばらく俺はそれをじっと見つめてた。
ふと、思った。
こんなやつ、なんか見たことある気がする。
長い前髪、マスク。
「…あ!?」
その時、俺のしょぼい脳内で、ある日の出来事が蘇った。最初はぼんやりだったその記憶が、段々と鮮明になって行く。
「咲人、お前まさか…あのときの!落とし物少年か!!」
「思い出してくれた!?」
「思い出した!超思い出した!」
ひとつ思い出したら、次々溢れてくる記憶。
…あれは確か中3の夏休みだ。
***
俺は廉との待ち合わせ場所に行くためバスに乗り込んだ。結構席が空いてたから、その座席の1つに座ろうとした時見つけたのだ。座席の上に、誰のとも知らない携帯と財布。
「え」
誰かの忘れ物だよな?前に座った人か。
…こんな大事なもの、ないと困るよな。
どうしよう。
…とりあえず交番にでも持っていけばいいだろ。よし。
丁度交番近くのバス停まで来たため、俺は一旦バスから降りて交番へ向かい歩いていた。
途中でふと気が付いた。しまった、バスの運転手さんに渡せば良かったんだと。
俺が後悔したその瞬間、先ほど拾った携帯電話が震え無機質な電話の着信音が鳴る。
少し迷った後、もしかしたら持ち主かもしれないと思い電話に出ることにした。
「も、もしもしっ?」
緊張気味に上擦った声で俺が言ったあと、電話越しに少し息を飲むような音が聞こえた。
『その携帯、俺の…』
ああ、良かった。
どうやら落とし主のようだ。
どこか色っぽい気だるげな低音、どうやら相手は男性のよう。
「良かった…今交番に届けようと思ってたんです」
『わりい、今どこ?』
「あっ…えっと…スタバの前です」
『…近くだわ。待っててくれない?すぐ取りに行く』
「はい。あと、お財布も…一緒なんですけど」
『黒いやつ?』
「はい!」
『…俺のだわ』
待ってて、と言われ電話は切れた。
落とし主が見つかって良かった。
俺は一安心して、スタバの前のベンチに腰かける。相手のブランド物っぽい高そうな財布に付いている定期ケースが目に入り、暇をもて余した俺は興味本意で何気なくそれに目を通す。
あれ…この人、俺と同い年?
つうか、誕生日…今日じゃん。
うわ、すごい偶然。
俺が少し驚いて感動に浸っていたとき、隣に誰かが座った。
マスクしてるし、目元も長めの前髪であまり見えない。
それより…
ほぼ真っ白に染められた髪。
一目見ただけでわかる程ピアスだらけの耳。
確信した。
こいつ……絶対不良だ!!
「拾ってくれてありがとう」
抑揚の無い声で言われ漸く我に返った。
あ、あなたが落とし主さんですか!
なんか、怖…
さっさと落とし物を渡してこの場を離れよう。そう思い、俺は手に持った携帯と財布を素早く相手に差し出した。
相手はそれを受け取り、もう一度小さな声で「ありがと」と言った。
「あ…じゃ、じゃあ俺はこれで」
「うん。色々ごめんね」
「…あ!」
軽い言葉を交わしてベンチから腰を上げようとしたとき、あることを思い出して俺は声を上げた。携帯を弄り始めていた隣の相手が不思議そうにこちらを見る。
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