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アーユーマイン?
20

「なんかさ、こーゆうの懐かしい」
「…そーだな」

俺の家までの道のり、他愛ない会話は中学生時代二人で一緒に下校していた頃を思い出す。
たまにマックに寄ったり、ゲーセンに行ったり…廉の家へ言ってゲームに夢中になって、結局泊まることになって母さんに怒られたり、とか。
懐かしいなあ、と頬が自然に緩んだ。

同時に、つい最近まで俺と咲人もそんなんだったよな…って考えて。もう、どうしたって最後には咲人のことに結び付いてしまう。そして落ち込む。

「よく、俺の家でテスト勉強したよな!」
「ああ」
「奏太さ、俺が珍しくやる気出して勉強しようとしてんのにゲームとかやり出すし」
「そしていつの間にか二人で対戦してんの」
「そうそう!テスト前日になってやっと『やべえ!』ってなって二人して徹夜〜みたいな」

すげえ、楽しい。気も遣わずに、くだらないことで笑い会える友達ってマジ貴重だなって改めて思った。

「…なあ、奏太」
「…ん?」

もう少しで家に着きそう、という所で急に、廉が声のトーンを変える。どこか真剣味を帯びたその声音と表情に、先ほどまでふざけまくっていた俺も少し緊張気味に返した。

「学校楽しいか?」
「え…うん、普通に」

確かに、咲人とのアレコレからちょっと…いやかなり学校が憂鬱だったけれど。
うわあ、俺そんなに態度に出てたかなあ。
あなどれん。と思いちらりと首を上げずに目だけで相手を見上げると、ちょっとだけバツが悪そうに目を逸らされ、わざとらしく咳払いをされる。

「…ならいいんだけど」
「なんでだよ〜」
「なんかさ、学校の話とかする度、奏太ってば一瞬浮かない顔するからさ…」
「…大丈夫、だよ」

昔から廉は鋭い。
顔も良いし、周りに気い遣えるやつだったから、なにげにモテてたんだよなあ、とぼんやり思った。

「まあ、もし何かあったら前みたいに気軽に言ってよ」
「おう」
「あー…奏太ってなんか心配なんだよなあ、加護欲が刺激されるっつうか」
「なんだよそれー」
「ちぇ、もう家着いちゃうじゃん。さみしー」
「ちょ、やめろ」

ふざけた廉が笑いながら抱き付いてきて俺の髪の毛をぐしゃぐしゃに撫で回すもんだから、ぎゅっと頬をつねってやった。

その時。

「いでで、頬っぺた千切れるーって…あれ?奏太ん家の前に誰か居る」
「はあ?………え?」

廉が行儀悪く指差す方向、俺の家の塀に寄りかかってポケットに手を入れたそいつは、俺たちの方をその綺麗な顔で、有り得ないくらいに無表情で凝視していた。

驚き、警戒、少しの恐怖がない交ぜになったワケわからない感情をどう口現せば良いのかわからない俺は、乾いた唇をぺろりと舐めて、あいつの名前を口にした。

それは、俺がもう何日も何日も脳内で反芻した名前。頭から追いやりたいのに居座って退かないあいつ。

「咲人」

なんで、あいつがここに?

空気の読めない、じゃない…何も知らない廉は興味津々という顔で俺と咲人を見比べる。

「まじ?咲人ってさっき女子が言ってた?噂の?綾瀬咲…」
「待って…えっと、とりあえず帰れ、廉」
「え!?いやいや…一体」
「送って貰ったのに悪い。今度なんか奢るし、またメールでもするから」
「えええー…うーん…うん」
「今日はありがとう。俺、あいつに訊かなきゃいけないことあるから…」
「…わかった。絶対連絡ちょうだいね。じゃあな、奏太」

廉は少し戸惑っていたものの、相変わらず完全無表情で此方を見つめる超絶美形の視線を浴びて、何か思うところがあったのだろう。引きつった笑みを浮かべると、一度俺の背中をポンと軽く叩いたら素直に聞き入れて帰ってくれた。

廉の姿が見えなくなるまで、咲人は射抜くような視線でその背中を見詰めていた。


…正直


超怖えよ!!?
脚なんてもうガックガク。背中には冷たい汗が流れてる。突然聞こえた鴉の鳴き声に5センチは飛び上がるくらい。

教室で、最後に見た咲人の姿を思い出していた。机を乱暴に蹴りあげる長い脚。
あれで蹴られたら俺なんて粉砕骨折するし。ガチで。

「あいつ、誰」

重苦しい沈黙の中、最初に口を開いたのは咲人。
ひたすらアスファルトに向けてた顔をバッと上げて、咲人を見つめた。

怒っているような気がした。

声が、震えていたから。

きっと眉を寄せたりして、不機嫌な顔なんだろうと。
だけど、俺が見たのは。

まるで泣きそうな顔をした咲人。



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