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アーユーマイン?
19

俺は壁際の席に座り、その隣に廉が座る。それからは、頼んだジンジャーエールをちびちびと飲みながら思い出話に花を咲かせた。

「で、あん時に奏太、俺に何したか覚えてる?」
「え?俺、何かしたっけ」
「ざけんなよ〜、奏太ってばさあ…」

くだらない話で思いっきり笑って、その間は嫌なコトを忘れられて…た矢先に、向かいに座っている女子数名の口から出された言葉に俺のテンションは急降下。

「そういえば三葉くんて、青錬高校だよね?」
「え!青高っていったら、綾瀬咲人と一緒?」
「いいなあ〜」

思わず気管にジンジャーエールが入り込み、派手に噎せた俺の背中を、廉が優しく擦ってくれた。
つうか…やっぱり咲人ってそんなに有名人なのか…わかってたけど、実際聞くとビビる。そういえば、よく他校の女子がわざわざ見に来てたりしてたなあ…一緒に街中歩いてても女子高生に逆ナンされまくりだし…

「げほ…っ…さ…咲人のこと、知ってんの?」
「私たちの学校でも人気あるんだよーてゆうか、三葉くん…まさか知り合い?」
「三葉くん、紹介してよ!」

突然肉食系に変貌を遂げた女子たちに捲し立てられ、少し身を引いてしまう。怖…
とりあえず苦笑いを浮かべて曖昧に誤魔化しておく。よく頼まれるんだけど、いちいち紹介なんてしてたらキリないし…
何より前に、あまりのしつこさに負けて隣のクラスのある女子に咲人のメアド渡したときには、咲人のやつスゲえ不機嫌になったし。
…今考えたら…俺の事好きだったから怒ったんかなあ。あれ…?あいつ、俺のこといつから好きだったんだろ。

「…くん、三葉くん聞いてる?」
「えっ…あ、なに?」

危ね、飛んでた。肩を叩かれて我に返り、慌てて聞き返す。目の前の女子はグロスでつやつやと光っている唇にポテトフライを運びながら、だからー、と話を続けた。

「私のクラスに綾瀬くんと中学の時同級生だった子が居るんだけど」
「へえ、あいつ地方出身だったよな?」
「うん、でさあ、綾瀬くん中学ん時相当荒れてたらしくてー…」
「…え?あいつが?」

荒れてただと?
あの成績優秀で、いつも寝てばっかで、俺にいっつもベシベシ頭叩かれてニコニコしているような咲人が?

「すごかったらしいよ。髪なんてほぼ真っ白に染めて、ほとんど学校も来てなくてさ…暴力事件とかも度々だったって」
「ま…まさかあ、俺あいつが喧嘩してる所なんて見たこと無いし」
「でも、ある時を境に突然学校に来るようになって、猛勉強し始めたって」

俺は、知らなかった。
高校に入る前の咲人なんて。俺はあのとき、入学式に出会ってから…たった半年位の咲人しか知らない。
そう考えたら、なんだかモヤモヤというか、何とも言えない気持ち悪さが胸の中を支配する。

中学生の頃は、かなりアレだったらしいけど…そんな素振り一切見せないし。
不良が前方から歩いて来た時には絶対目を合わせないようにしてたから、チキン仲間かと…


「そういえば…」


俺はふと思い出した。以前、本屋の前で俺が不良三人組に絡まれた時。
あいつら、なんか妙なこと言ってた気がした。

『なんか見たことある』
『咲人ってあの?』
『あいつが青高なんて入るわけない』

もしかして、本当に…

「奏太…なんか顔色悪いけどヘーキ?」

ひょい、と心配そうな顔をした廉が覗き込んできた。
本当、正直ちょっと気分悪いというか胸焼けが…

「…いや、大丈…」
「みんなー、俺ら二次会欠席するわ。なんか奏太具合悪そうだし」

大丈夫、と言おうとしたが、廉がバッと手を挙げてみんなに言い放った。
みんなは、えーとか言いながらも、大丈夫?とか、それなら仕方ないよねとか言って心配してくれた。

でも、なにも廉まで帰ることないじゃん。
「廉、俺一人で帰るから…」
「いや、送ってく」
「でも」
「俺、カラオケ苦手だからさ…」

小さな声で言われ、俺は渋々頷いた。
気使ってそんなこと言ってくれてんだなって事はわかるけど…本当はちょっと嬉しい。

ということで、俺は廉と共に居酒屋を出た。

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