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アーユーマイン?
17

「あ、咲人だ」

三時間目の授業が終わり5分休憩に差し掛かった時、俺の方を向いて談笑していた瑞希がふと教室の戸の方を見て言った。俺は息を飲み、ちらり、と視線だけ向ける。昨日は姿を見せなかった咲人がようやく来たようだ。

(あ…っ)

目が合ってしまい、俺は反射的に、露骨に視線を逸らしてしまった。まずい、と思いもう一度咲人を見ると、もう俺の方を見ていなくて。うつむき勝ちに自分の席につくのが見える。

瑞希はそんな俺らを見比べて不思議そうな顔をしている。無理もない。
顔を近付けてくると小声で伺ってくる瑞希。

「お前ら…どうした?まじで…」
「ちょっと、喧嘩しただけ」

ごめん、言えない。心配してくれている瑞希に嘘を吐いてしまい、ちくりと胸が痛んだ。

結局咲人とは一言も話せないまま、放課後を迎える。
今日何度目かわからない溜め息を吐きながら教科書を鞄に入れている時だ。妙にニヤけた瑞希が近寄ってきて声をかけてきた。

「奏太くーん、呼ばれてるよ?女子に!」
女子、をいやに強調している。

「あ、この前の」
「この前って何?え、俺聞いてないよ!話せ!」

うるさい瑞希をスルーして、鞄を持つと廊下で待っている女の子…明日香ちゃんの所へ向かった。この間俺に告白してきた女の子だ。

「ごめんね、呼び出したりして…」
「いや、大丈…」

遠慮がちに謝罪した彼女に、大丈夫だよといいかけたその時。背後の教室からとんでもない騒音が聞こえてきて、驚いて肩を揺らした。
な…なんだ!?
と心臓をバクバクさせながらも教室を覗き見ると、教室内はシンと静まり返っている。そして、皆がある一点に視線を注いでいた。

――咲人。

椅子に座ったままの咲人の机が斜め前方の離れた所にあり、ぶつかった机や椅子達を巻き込んで倒れて大変な事になっている。
おそらく、咲人が机を蹴りつけたのだろう。

普段常にニコニコしている咲人の冷えきった表情にみんなは、唖然としたような、怯えたような目で遠巻きに見ているだけで…誰も声を掛けられずにいる。あのお調子者の瑞希でさえ。

え……俺?聞くまでもないだろ。
だって、今の咲人はかなりヤバい。気がする。俺のチキンセンサーが警報を上げているんだよ、見るな、逃げろって。

あ…目が、合った。

「…行こう!」
「え?わ…奏太くん!?」

咲人が、ゆっくりと面を上げてこちらを見た瞬間。俺は明日香ちゃんの腕を掴んで走り出した。




―どれくらい走っただろう。
かなり離れた棟の階段下まで来てしまったのでゼエゼエと息が切れる。俺は掃除用具入れに寄りかかり、ずるずるとしゃがんで息を整えた。明日香ちゃんも肩を上下させ息をしている。

「奏、太くん…ど、したの…?」
「ごめ…本能が、に、逃げろ、って…言って…」
「…?そ、そうなんだ?」

よくわからん、という顔をしている明日香ちゃんを見上げ、ぐちゃぐちゃの頭の中を整理する。

…そういえば。俺この子に呼ばれたんだ。

「あー、明日香ちゃん?あの…告白の返事だけど…」
「うん…」
「俺、まだよくわかんなくてさ…つか、何か色々あって…気持ちが纏まってないっていうか…」
「…返事は、いつだって良いよ。…あのさ、奏太くん…。やっぱり…綾瀬くんに反対された?」

―は?

待て。どうして突然咲人が出てくるんだ。確かに、反対…というか、アレされたけど…まあ、反対…うん、されたけど。
その事が明日香ちゃんの口から出てくるとなると、少し引っ掛かる…何だか違和感を感じた。

もしかして、咲人目当てで俺に近付いた、とか?

不愉快な想像に眉を潜めた俺を見て、何を思ったのか焦ったような明日香ちゃんが言葉を続ける。

「ち、違ったら良いの。気にしないで!ただ、前にそういうことがあったから…」
「…何の話?」

さっぱり話が読めん。
前に、って?
俺告白されたのなんて明日香ちゃんが初めてなんだけど。

なんか、すげえ嫌な予感がする。

「奏太くん…知らない、の?」
「だから何の話って」
苛々してきた。

「Eクラスに…私と同じく、奏太くんの事が好きで告白したいって言ってた子が居て」
「え!!」

俺、まさかのモテモテ?

「…でも奏太くんってクールだから中々話しかけられなかったみたいで」
「クールだなんて、そんなかっこいいもんじゃ…」
ただの人見知りだ。

「だから、奏太くんと仲の良い咲人くんに頼んだらしいの。手紙を渡して欲しいって」
「……そんなの、聞いてない」
「そしたら、咲人くん…彼女の目の前でラブレターを破いて」
「………」
「こう言ったらしいの、『君に奏太は勿体ないよ。俺を好きになれば?』って…」




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あきゅろす。
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