アーユーマイン?
14
咲人が椅子から立ち上がる、俺は無意識に一歩後ずさった。だって、なんだか違うから。いつもの咲人じゃ、無い…
「さ…」
「壊したく無かったんだ」
「咲、人」
「だからずっとずっと我慢してきた」
「何の話…」
ガタッ
じりじりと後ずさる俺の腰が背後の机に当たり、緩く痛む。どうしてかわからないが、今までにないくらいに目の前の親友が…怖い。
「なんで、逃げんの」
「や、だってお前…」
「奏太、俺はね…奏太の側に居られるだけで良い…今のままでも良い、って自分に言い聞かせてた」
伸ばされた咲人の右手は俺の左腕を掴み、左手は俺のネクタイを掴んだ。
逃がさない、とでも言うよう。
「お前何言って…」
「けど。無理だ、もう無理なんだよ」
「…咲人」
ぐいとネクタイを引かれるまま、俺たちの顔の距離が近く、なる。数センチ目先の端整な顔は見慣れたもののはず、なのに…
「奏太が、俺以外の誰かの物になるなんて、絶対許せない、許さない」
この人は、何を言っているんだ?まっ白く塗りつぶされた頭が、言葉の理解をするより前に。
衝撃。
衝撃と言っても、拾った感覚は唇に当たる柔らかな感触なのだけれど。強かに頭を殴られた程の衝撃と、驚愕が一気に押し寄せる。
何を、されてるの
何、これ
どうして どうして どうして
目の前に居るのは、咲人、だよね?
「…んううっ!ん!」
微かに開いた唇の隙間から、ぬるりと温かな物が侵入してきて俺は益々恐慌し、咲人の胸を空いている右手で叩いたがビクともしない。
やだ、いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ。
情けない、けれど。眼球に張った水で視界がぐらりと歪み、ぎゅっと瞑った目から溢れ出た大粒の涙が頬を伝う。
ようやく唇を離した咲人の表情は、痛みを堪えるように歪んでいた。
「奏太…」
「なん…で」
「奏太、好きなんだ」
「嘘、だ」
冗談だ、って笑ってよ。
ちょっとからかったんだ、って。
いつもみたいに、いつもの咲人の笑顔見せて。
柔らかくて、ちょっと悪戯っぽい、いつも安心させてくれる、笑顔で。
そしたら、まだ戻れる、戻れるから。
そしたら、俺は凄く怒るけど…多分いつもの喧嘩と一緒で。
次の日には、何て事なく普段通りに戻れるから。
ねえ お願いだから。
「嘘なんかじゃ、ない」
――ああ、壊れてゆく。
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