剥き出しになった本性
「ダメですかね?それとも何か問題でも。」
「はぁ、しかし…」
骸は困っているようだった。そりゃそうよね、あたしが"側にいて"なんて言っちゃったから。
『いいわ、骸あなたは下がりなさい。』
「しかしお嬢様、」
骸の心配そうな目があたしを捉えた。泣きそうになるほど嫌がってた相手と二人きりになんて出来ない、そんな顔してる。
『骸、下がって。』
「…分かりました。」
あたしは出来るだけはっきりした口調で骸に言った。
そもそも骸に側にいてもらったのは、単なるあたしの我が儘。先生が気持ち悪いからとか、先生の行動が不愉快だからとか、そんな理由。こんな子供じみたことで骸を困らせてるようじゃ、パパとママの留守なんてとても守れない。
それに先生と二人きりなんて、今までだって耐えてきたんだもん、耐えれないはずがない。あたしの自意識過剰のせいで、骸に迷惑はかけられない。
嫌なことにだって耐えれるような、大人にならなきゃ…。
「ではお嬢様、レッスン頑張って下さいね。失礼します。」
『うん、ありがと。』
骸は静かに出て行った。
先生はそれを確認するようにもう一度扉を開け、ゆっくりと扉を閉めた。
───--
「ではさっきの続きから。美依様、いいですか?」
『はい。』
演奏を始めた途端、先生が接近してきた。骸が居た時には見せなかった、いつものパターンだ。
「美依様、どうしたんですか?あの男が居た時はあんなに上手に演奏されてたのに。今は全然ダメだ。」
近い、近いって!気持ち悪っ!
でもこれくらい、いつものことじゃない!
美依、我慢するのよ!
「ほら、腕が下がってますよ。姿勢も悪い。」
そう言って手をあたしの腰から上へと滑らせた。あたしは全身に鳥肌がたつのを感じた。
『…っ!先生、ちょっと近すぎじゃありませんか?』
「おやおや、私の指導が気に入ってもらえませんか。」
触られるのも初めてではない。だけど両手にバイオリンと弓をもっているので、払いのけることも出来ない。いつもこの程度ですんでいるから、あたしはただひたすら我慢していた。
『そ、ういうわけでは…ひゃあ!?』
あたしが反抗しないのを良いことに、今度はあたしの胸を揉みだした。
『ちょっ、やめて下さい!』
身をよじって先生の手を振りほどく。先生の手から体を離して、自分の手で身を覆った。
『何するんですか!?』
「何って、"レッスン"ですよ。美依様はあまりにも世間のことを知らなさすぎです。だから、私が教えてあげますよ。」
先生がニヤリと笑った。
今までとは、違う。
ヤバい…!
早く逃げなきゃ!
本能がそう告げていた。
あたしは、バイオリンをその場に投げ捨てて扉に向かって走り出していた。
剥き出しになった本性
(あたしが感じた危険は気のせいなんかじゃない…!)
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