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反撃開始


『失礼、します…』


「おぉ、美依様!待ちくたびれましたよ。」


いつもレッスンをする部屋で、先生はいつものように待っていた。知的で身なりの良い先生は、紳士的で好印象を与えるような人物だ。でもあたしは先生が好きじゃなかったし、近づく度に香る先生の香水のにおいさえも嫌いだった。


『お待たせして申し訳ありません。』


「いやいや、構いませんよ。お父様とお母様がいなくなられて日も浅い。美依様も色々お忙しいでしょう!」


『お気遣い、ありがとうございます。』


「それで、こちらの方は?」


先生は紳士的な笑みを浮かべたまま、骸の方に向き直った。


「これは失礼しました。僕はお嬢様の執事をさせてもらっている六道骸と申します。」


「ほう、執事さんでしたか。しかし何故レッスンにまで?今までレッスンは私と美依様、二人きりでしていましたが。」


『それは、その…』


あなたと二人きりが嫌だからです!なんて、口が裂けても言えない。


「いえ、僕がお嬢様に同席させてもらうよう頼んだんですよ。僕はお嬢様のバイオリンを聴いたことがないもので。」


「そうですか。」


骸の応えが気に入らなかったのか、先生は少し不機嫌そうな顔をしていたが、渋々納得したようだった。




 
「それでは美依様、レッスンを始めましょう。」





───--



「良いですね!美依様、大分上達されたと思いますよ。」


『ありがとうございます。』


骸がいるせいなのか、今日はまだ一度もいちゃもんをつけられていない。(勿論密着もなし!)先生はバイオリン講師なだけあって、(変な行動をとることはあっても)決してお世辞を言うことはなかった。


だから今日褒められたのは素直に嬉しい。



「では一旦休憩を取りましょうか。」


休憩だなんて珍しい。いつもなら時間いっぱいあたしの側に付きっきりなのに。


不思議に思いながら、あたしは部屋の隅にある椅子に腰掛けた。




「そうだ六道さん。」


「おや、何ですか?」


「気を悪くしないで欲しいのですが、美依様のバイオリンの腕前も十分分かったことでしょうし、二人きりでレッスンをさせてもらいたいのです。いや、ね、音楽のレッスンというものは第三者が居ると少々やりにくいところがありまして。」



嫌な予感がする。


この人は知っているのだ。執事よりも自分の方が立場的には上であることを。


執事が講師の言い付けを断れないことを。


一瞬先生の紳士的な笑顔が、怪しく歪んだように見えた。






「つまり、あなたに出て行ってもらいたいのです。」










開始
(大丈夫、ただいつも通り二人きりでレッスンするだけじゃない)








 



あきゅろす。
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