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レッスンは嫌いよ


骸が有能だってことは、彼と数日一緒に過ごしてみてよく分かった。仕事は完璧だし、時間にも正確だし、何より驚いたことに使用人さん達をもう使いこなしている。(何か言い方悪いけど)


ママ曰わく、"余所者に若宮家を任せられません!"って、使用人さん達は最後まで執事を雇うことに反対だったらしい。でも今じゃすっかり骸と使用人さん達は仲良しだし、使用人さん達は骸の指揮に従っている。


多分彼女たちにも骸の優秀さが伝わったんだと思う。





───--



「お嬢様、バイオリンの先生がいらっしゃいましたよ。」


『えっ?今日レッスンなんてあったっけ!?』


「はい、予定では2時からとなっていますが。」


『あ、忘れてた…!』


あたしは今、あからさまに嫌な顔してると思う。あーあ、このままレッスンのことなんか忘れてれば良かったのに。


「おやおや、そんなに嫌そうな顔をしてもダメですよ。」


『だってぇ…』


だって、あの先生気持ち悪いんだもん…!弓の持ち方が変だとか、顔の角度が変だとか、何かといちゃもんつけてあたしに密着してくるし。何回かお尻触られたこともあるし。何故か始終にやにやしてるし。


パパとママがいなくなったことで更に身の危険を感じてしまうのは、単にあたしの考え過ぎなのだろうか?


「お嬢様、そんな涙目で見つめられたら変な気起こしますよ。」


『骸、骸、お願いがあるの。』


「なんですか?」





バイオリンのレッスンの間、ずっとあたしの側にいて──



燕尾服の端をぎゅっと掴んで、そう訴えるお嬢様。大きな目にはうっすらと涙を浮かべて、下から僕を見上げている。こんな可愛いことを言われたら、自分が抑えられなくなりそうです。



『だ、め?』


「クフフ、勿論良いですよ。あなたが望むなら、僕は喜んでそうしましょう。」


『本当?ありがとう。』


嬉しそうに笑うお嬢様があまりにも眩しくて、思わず抱き締めたい衝動にかられた。行き場を失った手は、彼女の頬に触れていた。


『骸?』


「先生の前では泣きそうになってはダメですよ。」


『えっ?うん、そりゃ勿論泣かないよ!』


「では、行きましょう。先生がお待ちです。」


さて、お嬢様がバイオリンの先生をこんなにも嫌がる理由を調べる必要がありそうですね。












レッスンはいよ
(お嬢様のバイオリン、楽しみです)
(え゛っ、あんまり期待しないでね…)







 



あきゅろす。
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