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旅立ちと始まり


いよいよパパとママがイギリスに行ってしまう日、あたしは二人を見送りにやって来た。我が家のプライベート・ジェットは既に用意されていて、大きなエンジン音をたてて二人が乗るのを待っている。


「旦那様、荷物が全て積み終わりました。」


「ああ、ありがとう。」


骸が(名前で読んで欲しいって言われたから、)パパにそう言って一礼した。



仕事道具が一切消えてしまったパパの書斎。ママの服やカバン、宝石類があったはずの寝室横のクローゼット。それらのものは二人が居なくなることを実感させたけど、目の前の光景からは実感がわかなかった。


ちょっと海外旅行に行ってくるような、そんな感じ。


それにあたしはいつも二人と一緒に飛行機に乗る立場だったから、見送るっていうことに何だか違和感を感じる。



「それじゃあ美依、行ってくるから留守番は頼んだぞ。」


パパの大きくて優しい手が、あたしの頭をぽんと叩いた。


「美依、寂しいとは思うけど…パパの仕事が落ち着いたら帰ってくるから。何かあったらすぐ電話するのよ。」

ママは優しくあたしを抱き締めてくれた。


『うん、二人共元気でね。早く帰ってこいとは言わないけど、あたしの結婚式までには戻ってきてよ?』

あたしが冗談ぽく笑うと、二人は安心したように微笑んだ。


口には出さなかったけど、二人はあたしのことをすごく心配していた。(あたしを不安にさせないように黙っていたみたい)
だけど、今のあたしを見て大丈夫だと悟ったらしい。実際、あたしはあまり不安を感じていなかった。



「仕事、あっちで絶対成功させるからな。」


「美依が寂しくなったら、いつでも飛んで帰ってくるわね!」


『あはは、じゃあ二人共頑張ってね。お元気で。』





───--


二人を乗せた飛行機が居なくなった後も、あたしはぼうっと空を眺めていた。


『骸ー』


「どうしました?」


骸の方に体を向ける。後ろで束ねられている彼の長髪は、風でゆらゆら揺れている。


『これからパパとママが帰ってくるまで、いっぱい迷惑かけると思うけど─あたしのことよろしくね。』


「はい、こちらこそ宜しくお願いします。」


そう言って、初めて会った時みたいに跪いてあたしの手にキスを落とした。綺麗な目で見上げられてドキッとしたのは、内緒の話。











旅立ちとまり
(ねっ、何で骸は左右の目の色が違うの?)
(クフフ、僕みたいな人のことをオッドアイと言うのですよ)
(へぇー…、ってそうじゃなくて!)
(なんです?)
(や、何でもないです…)








 



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