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仁義なき痴話喧嘩(ワートリ)


仁義なき痴話喧嘩




感覚維持程度の射的訓練を終わらせて何の気なしにロビーを訪れると、右奥で言い争いが起きていた。何を言っているのかわからないけど、声だけはまだ幼い中学生でも完璧に少年を脱した大学生でもなくオレと同い年くらいの男女だとわかる。そうなるとこのボーダー内では大体が知り合いだ。仲裁に入るってキャラじゃないのは周知であって、勿論野次馬として発信源に近づく。
少し進めば、黒地でツバがシャドウブルーの帽子が見えて、人物に検討が付いた。あの弧月振り回す狙撃手だ。
そうなるともう片方は、その狙撃手と真っ正面からぶつかり、言い争いの出来る女子ということになる。そんなのボーダー内で一人しか知らない。
案の定オレの予想は大当たり。
そしてその隊長とオペレーターが言い争っている状況に、二人の間に立ちつつも何か進言するわけでもなくただ見守っている隊員がいた。オレはその隊員にそっと声をかける。


「どうしたんこれ」

「犬も食わない話だ」

「なるほど」


二人の関係を知っている人間には十分な説明だった。馬に蹴られる前に退散するのが利口だろうが、生憎オレは頭良い判断と面白そうな状況なら、迷わず後者を取る。


「そう言う穂刈は何でここにいるんだよ」

「ルールだ、隊に影響が及ぼさないようにするための、こういうことでケンカして」

「た、大変だな……」


確かに、痴話喧嘩が長引いて隊内までギクシャクしてしまうってのは、有りがち且つ最悪のパターンだ。
信頼出来る第三者を傍に置くというルールがあることで、もし今穂刈が発言しても無視や感情だけの反発が返ってくることはない。ルールとした以上、二人も耳を貸さなければならない義務があるから。よく考えたものだ。
今のところはただ見ているだけの穂刈の肩に腕を回す。


「理由聞いても大丈夫なかんじ?」

「決まらないらしい、次のデート場所が」

「は?そんなことでケンカになんの?」

「「そんなこと?」」


やばい。
寄りによって失言が、本人達の耳に届いてしまった。二人は互いに向けていた矛先をオレに向ける。


「あの日しか特典がつかないのよ!入場特典!」

「あの映画の入場特典だってすぐなくなるつってんだろ!」

「普段そんなの気にしないじゃない!」

「今回は設定集小冊子なんだよ!お前だって俺があの監督好きなの知ってんだろ!」


しかし矛先はすぐまた互いに戻った。
話の内容から察して、行きたい場所が譲れないようだ。
それ自体がおかしいと思うんだけど。
というのも荒船は、同級生で映画を見に行こうと誘っても、映画は一人で見るからDVDが出たら皆で見る、と言って絶対に断る。こんな意固地に誰かと見たいなんて言うのは初めてじゃねえの。


「お前いつも一人で見てんだから、デートは別の日にしてそれぞれ行きゃいいだろ」

「出来ればとっくにそうしてるっつの!」

「は、え、何、そんなキレるようなこと言った?」

「受験に色々重なっちゃって、お互い次の休みまで予定が空かなかったの」


加賀美が補足してくれてやっと納得する。ボーダー隊員が防衛任務を行う際に出られない講義や、それによって貰えない単位を考慮してくれる 大学は今のところ一校しかなく、荒船はその中でも一番偏差値の高い学科を受験していた。ちなみにオレは一番低い学科。受験自体ですらてんやわんやだというのに、一番の追い込みシーズンに近界民の大規模侵攻がありやがって。しかもB級はランク戦までぶっ込まれていたもんだから、想像を絶するくらい大変だったろう。
隊員がほぼ学生なんだから、予定くらいもっとオレ達の都合に合わせてくれてもいいと思うんだけど。今度忍田さんに言ってみるか。


「だから譲るって言ってる。オレ達でランド行くのを」

「「それはダメだって言ってる!!」」


穂刈の言葉に、荒船と加賀美が物凄い剣幕で声を合わせて返した。
何だなんだ、荒船隊は隊員でランドに行くのか。仲良しかよ。うちじゃまずオッサン隊長がアウトでありえねえな。


「誰かランド好きがいんの?」

「そういう問題じゃねえ」

「みんなで遊びに行くことに意味があるんだよ」


仲良しかよ。


「えー……あー…………あ。じゃあ、どっちも行きゃいいじゃん。美術館?行ってから映画とか」


皺の少ない脳みそをどうにか捻って考えだした提案に、加賀美がうんざりした顔をして荒船を指差す。


「入場特典がかかってる映画が控えてるのに、この男が黙って私に付いて来ると思う?絶対急かしてくるよ」


おいまだ見てるのか。間に合うのか。間に合わないだろ。早くしろ。間に合わなくなる。あとどれくらいあるんだ。まだか。まだ見るのか。早くしろ。

作品?絵?を一つ一つ見る度に荒船が隣でそう言うのが容易に想像出来た。
佐鳥や歌川みたいなフェミニストでもあるまいし、絶対言いたいことを言ってしまうだろう。これはデートどころじゃない。最悪だ。


「言っとくけど、逆もまた然りだからな」


はい見終わったね。行くよ。
そう言って、エンドロールが始まったと同時に荒船の手を引いて映画館を出る姿が想像出来た。

映画好きの荒船にとっては、多分、最大の嫌がらせになるだろう。この後の空気なんて考えるのも恐ろしい。


「いっそのこと、デートはまた今度にしてお互い好きな所行けよ」


そう。それが一番の平和的解決策。


「「イヤだ」」


またもや二人揃って口を動かす。
なるほど。
行き先へ譲りたくないのに、デートはしたいわけか。しかも日にちは動かせない。

めんどくせえな!!!


「もうジャンケンしろジャンケン!」

「今加賀美が勝ってる。12対13で」

「どういうことだよ……」


最終手段として提案したのに、穂刈から斜め上のカウンターをくらって頭を抱える。
勝利条件何なんだよ。ジャンケンで15勝先取なんて聞いたことねえんだけど。


「引き延ばして決着がつかなくなってる。三番勝負、十番勝負、ってかんじで」


それ、一生決着つかないだろ。負けず嫌いも程々にしないと、ただの往生際の悪いやつにしかならないっのに。


「言い争っていた、埒が明かないと、今」

「なるほどな」


最早ケンカの主旨が変わりつつあるということか。


「そこで提案がある、二人に」


穂刈が肩まで挙手して発言すると、仁王立ちで火花を散らしていたバカップルがこっちを向いた。
ジャンケンですら決まらないこの二人が納得するような案なんて、本当にあるんだろうか。


「戦えばいい、一対一で」

「は………………?」


何言ってんだこいつ。
真横を向いて顔を覗くと、いつも通り涼しい顔をしている。


「一回勝負だ、泣いても笑っても」

「いやいや、おま」
「オッケー。やってやろうじゃない」


穂刈の肩から腕を離して諭そうとしたオ レの言葉を遮り、まさか加賀美が言ってのける。
待て。その台詞は荒船のもんじゃないのか。しかし当の彼氏様も、上等だ、とか何とか言ってニヤリと口角を上げた。
当人達の賛成で、一同がC級ランク戦ブースへ移動を始めるなかオレはその場から動けず、とんとん拍子に進む展開に間を挟もうと呼び止める。


「いやいやいやいや」

「どうした当真」

「どうしたもこうしたもねえよ。訳わかんねえ」

「何が」

「全部……っつか待てよ!」


誰一人振り向くことなく進みやがって、結局オレが三人を追いかけた。
オレの記憶が正しければ、いや考える間でもないが、加賀美は荒船隊のオペレーターだ。オペレーターというのは大体B級に上がってすぐそのポジションに就くため、防衛隊の一員であるにも関わらず個人ポイントは昇級条件を満たした時点で止まっている。つまりは四千点代ということ。一方荒船は、弧月、イーグレット共に八千点以上のマスタークラスである。
実力に伴った点数で五百点差ならまぐれで勝てるかもしれない程度、千点差なら絶対勝てない。これが大まかな目安だ。実力差、点差無しに作戦は立てられないため、オレ達A級は勿論、B級隊員の個人ランク点まで逐一把握しておくのが当たり前となっている。
話を戻すが何を言いたいかというと、四千点代の加賀美じゃ、天地がひっくり返っても荒船に勝つなんて有り得ないということだ。八百長試合より酷い勝負。今からそれをしようとしているのだから流石のオレも慌てる。


「こんなん決着見えてんだろ」

「は?」


前を歩く三人が惚けた顔してオレを見る。何を言っているのかわからないとでも言いたげな表情にイラッとしたとき、ようやく合点がいったらしい穂刈が口を開いた。


「加賀美は戦える、オペレーターだけど」


その衝撃発言に残りの二人は、ああ、と零した。


「そう。荒船くんに習って、弧月振ってるんだ」

「近中距離の間じゃ結構有名なんだが、そうだな、確かに狙撃手は知らないよな」


ランク戦をしてポイントを稼ぐ際、近中距離の攻撃手、銃手、射手、万能手は合同だが、遠距離の狙撃手だけは場所も方法も違う。狙撃手だけは専用の訓練場へ行き、難易度を決め、的に命中させてポイントを稼ぐようになっている。というのも、近中距離のランク戦では仮想空間にランダムで転送されるため、対正面で転送されてしまえば勝ち目がないのだ。
そういうわけで、近中距離の話題はどうしても遅れて入ってくる。うちの隊なんかは、オレと特殊工作兵ジジイとオペレーターしかいないから尚更だ。


「何で戦うんだよ」

「オペレーターが個人ランク戦に参加しちゃいけないなんてルールはないでしょ」

「でもやる意味ねえじゃん」

「実戦で意味なくたって、せっかくトリガー支給されてるのにやらないなんて損じゃん」

「要はただの自己満足だ」

「いつこの隊から抜けても苦労しないようにってのもあるけどね」


一言多いバカップル達が、お互いに見つめ合うもとい火花を散らし合う。


「ダメだ、抜けるのは。こいつとケンカしたぐらいで」

「穂刈くん……」


オペレーターだけど戦えるという説明が瞬く間に、加賀美が彼氏の目の前で他の男にときめく、という修羅場へと発展してしまった。荒船隊怖え。
そういえばケンカの片を付けるために戦うんだったな、と本来の目的を思い出したところで、C級ランク戦ブースのロビーに辿り着いた。バカップルが顔を上げて周りを見渡す。


「62」

「3」


入る部屋の番号だけ発して各々部屋へ向かおうとしたところで、米屋がこんちわと挨拶して来た。


「今日の訓練室当番東隊っすよ」

「ありがとう米屋くん。でも今日は稽古じゃないの」

「え?でも、荒船さんとでし……ょ……」


話している途中でやっと空気を察知した米屋は、頭の後ろで組んでいた手をゆっくりと解いて視線を逸らし、次の瞬間サッとネズミのようにオレの背に引っ付いた。


「なんなんすかあれめっちゃ怖い荒船さんめっちゃ怖い」


それを目で追っていた荒船は、鋭い眼光でオレ越しに米屋を睨みつける。さっきの加賀美が穂刈にときめいたのを、まだ引き摺っているらしい。といっても、一言返しただけなんだけど。


「今加賀美とケンカしててよ。決着つけるために実戦すんだと」

「じゃあ何でおれ睨まれてんの」

「加賀美と喋ったから」

「加賀美先輩が言葉返してくれただけじゃね!?」

「それな」


しかししょうがない。今の荒船はカゲより噛みつきやすいと思え。


「いいんじゃないか、訓練室の方が。融通が利くし、勝利条件に」


穂刈がこの状況をものともせずに口添えすると、加賀美が荒船を見ながらそうだねと賛成する。最早オレを睨んでるといっても過言じゃない眼光が更に鋭くなるも、不戦敗が嫌ならついて来てね、と言われてしまえば、ついて行くしかない荒船だった。




C級の対近界民戦闘訓練が終われば、その日の訓練室当番という名の管理者責任の下、自由に使っていいことになっている。他の隊ではどうかわからないが、東さんが管理者代表なら大体の融通は聞いてもらえそうだと思うのは必然で、事実そうだった。


「東さん、勝負判定お願いします」

『誰がやるんだ?』

「俺と加賀見です」

『え』


アナウンスが止まる。そりゃそうだ。しかしそこはさすが東さん。すぐに立ち直り、理由を聞かないまま話を進める。


『勝利条件は』

「……三分マッチで、防戦の俺に傷をつけられたら加賀見の勝ち、無傷で逃げ切ったら俺の勝ちで」


その言葉に顔をしかめたのは加賀見だ。


「傷をつけられたらなんて言わなくても緊急脱出させてあげるよ」

「やれるもんならやってみろ」


これで、誰かが説明せずとも東さんなら大体のあらすじは理解してくれただろう。荒船と加賀見の関係自体は、B級以上の人間なら知らないやつの方が少ない。
穂刈とオレと米屋が二階の観戦席に移ると、観戦席側の入口から国近と出水がやってきた。


「どうしたお前ら」

「槍バカから加賀見先輩がトリガー起動するって連絡あって、丁度隣にいた柚宇さんに引っ張られて来ました」

「だって倫ちゃんの戦うところ見たかったんだもん」


ゲームの話をするときみたいに目をキラキラ輝かせて国近は言う。


「ふーん…………え、」


視線を一階に戻すと、加賀見が既にトリガーを起動していた。オペレーターモードから隊服モードに切り替えたといった方が正しいか。そこまではいい。
目に留まったのは、加賀見の髪型。オレが言えた義理じゃないが、ユニークで毎回セットが大変そうな髪型から一変、綺麗に纏まったポニーテールをしていた。確かにトリオン体では髪型まで調整出来るし、稀にそうしているやつはいるが、本当に稀なのだ。それに、普段の髪型にこだわりがありそうだったし。
隣にいる穂刈に聞いてみる。


「加賀見のやつ、なんでポニーテールにしてんの?」

「要望だそうだ、荒船からの」


聞かなきゃよかった。
突然のノロケにげんなりしていたところで、二人が弧月に手をかけ、前傾姿勢をとって構える。
ついいつもの癖で、相手が次に現れる場所を予測してそっちに目を向けてしまった。

ガキンッ

そういうような音が鳴ったかと思えば、ドンピシャで加賀見が現れる。反射的に指が動いてしまったのはポジション柄、許してほしい。
そのあとすぐに消えていなくなり、次の瞬間には荒船と刀を交えていた。
思っていたよりずっと、体の捌きが速く、滑らかで、手数も多い。正直B級下位を凌ぐ動きに見える。
次はノロケで返ってこないよう祈りながら、また穂刈に聞く。


「なあ、加賀見ってポイントいくつ?」 

「祝ったとこだ、七千点越えを、この前」


七千かよ!そりゃ多少動けるわけだわ。
しかしいくら振っても、荒船に当たることはない。それも当然。どの太刀筋も荒船が教えたものだからだ。教わった人間の動きが、教えた人間の動きによく似るというのは当たり前のことで、狙撃手の オレ 達でも場所の選び方か打った後の動きで大体師匠が誰なのか特定できる。それぐらい顕著に表れる。
言うなれば、荒船は加賀見の動きを対戦する前から全て見切っているのだ。加えて攻守をはっきりさせたルールじゃ、傷一つつけることすら難しい。意地悪な勝利条件を突き付けたものだと思うほどだ。それに戦い方も限られてくる。

タイムリミットの半分が経過したときだった。

弧月が交じり合った反動で互いが一歩後退した直後、間合いを詰め、真っ正面から切りかかった加賀見に対して、荒船は弧月で止めながら向かって右にいなし、立ち位置を逆転させるように体を逃がす。
ドンッ、とオレ達の足下が細かく揺れた。
目を凝らして見ると、さっきまで荒船が立っていた場所の、床スレスレに手の平サイズの立方体が二つ浮いている。


「アステロイド!?」

「元々射手だぞ、加賀見は」

「はあ!?」


それで荒船に教わるからって、またゼロから弧月始めたってのかよ。マジか。結局ノロケかよ!


「訓練室だしな。絶対そうくると思ったぜ」


上からだと帽子のツバで表情が読めないが、ありゃドヤ顔してやがんな。
加賀見が舌打ちしたのを見てほぼ確信する。


「まだ終わってないですか!?」


そう叫びながら駆け込んで来たのは、那須隊の熊谷だった。


「くまちゃん!もうすぐ決着着くよ!」


どうやら国近が呼んだらしい。
生身でスマホを耳にあてたままバタバタと駆け寄って、出水の隣で立ち止まる。


「玲、うん、間に合った」


電話の相手は那須のようだ。
熊谷のド派手な登場に気を取られることなく、対戦者二人は攻防を続ける。
残り三十秒といったところか、加賀見が振り下ろした弧月を翻し、ゴルフショットのように下から振り上げる。これには荒船も跳び退くしかなく、背後に待機していたアステロイドが放射される。

空中じゃ回避のしようがない。
だからこそ、シールドが効果を発揮するのだ。

背に張っていたシールドによって、アステロイドの弾は防がれる。

しかし、そのアステロイドは囮だった。

荒船が背後に気を取られている隙に、加賀見が足を狙って横一線に弧月を振る。

それは空を切った。

荒船がとっさに足を引いたのだ。
そして最後の数秒を確保するため、引いた足を伸ばして加賀見の肩を蹴り、更に跳躍する。
もうアステロイドを出しても時間切れになる。荒船の勝ちだ

途端、荒船の頭が吹っ飛んだ。

頭のないまま、胴体が背中から落ちて一度バウンドする。


『荒船ダウン。勝者、加賀見』


東さんが事務的に結果をアナウンスした。
荒船の真上、オレ達も見上げるほどの高さに立方体が一つ。

アステロイドだ。

背後の攻撃も、足への攻撃も、予め上に浮かべてあったアステロイドを見つからないようにする布石だったのだ。
ヒュウ、と米屋が口笛を吹いたことを皮切りに、皆でぞろぞろと階段を下りて二人のもとに駆け寄る。


「いやあ、綺麗な花火だったわ」


一発命中だったこともあり、首から上に花が咲いたような見た目で、思わずゲラゲラと笑ってしまう。
頭が戻った荒船が、後ろに手をついたままオレの脛を思い切り蹴ってきた。


「くっそ、最後だけ炸裂弾とかおかしいだろ。悪意しか感じねえ」

「芸術的だったでしょ」


確かにあれは芸術だった。まだ目に焼き付いてる光景が可笑しくて可笑しくて笑いが止まらないところで、立ち上がる最中の荒船に脇腹を殴られる。 


「倫ちゃんやったねー!」

「いえーい」

「加賀見先輩、流石でした!」

「那須ちゃんとくまちゃんのおかげさまだよ。ありがとう」


女子勢がキャッキャしてる手前で荒船が、あー、と呻いて天を仰いだ。


「なるほどな」

「何が?」

「こんなに上手くアステロイドを使いこなした理由。俺の知らないところで那須隊に稽古つけてもらってたわけだ」

「あー」


言われてみれば、土壇場で初めて併用したにしては上手く出来すぎていた。射手の那須と、今回の加賀見と同じくアステロイドと弧月を併用する熊谷がレクチャーしていたのだろう。


『加賀見の作戦、見事だったよ』

「ありがとうございます!」


東さんからお褒めの言葉を授かり、顔を赤らめるほど嬉しそうに礼を言う加賀見に、荒船が舌打ちする。この場合何に対しての舌打ちなのか計りかねるから追求はしないでおく。


『なかなか良い試合だったから、ログ撮らせてもらった』

「東さん!!」

「マジ!?」

「おれもう一回見たい!」


言うなり米屋と出水が飛び出して行った。オレも荒船が消さないうちに見せてもらおう。


「これで、今度遊びに行くのは美術館だね」

「あー!あー!くっそ!」


かつてないほど悔しがる荒船に、ドンマイと言葉を送って管理室に向かった。




後日、非番で特別予定もなく昼前に起きてスマホを点けると、穂刈からメールが来ていた。

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sub:やばい
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この前の対決で加賀見が勝って昨日美術館に行ったんだって((((*゜▽゜*))))
でも荒船が前日に、防衛任務終わってから映画見に行ったみたいで(´・ω・`)
当日大寝坊したうえにずっと眠そうにしていたらしくて、朝から加賀見の機嫌がやばい(´θ`llll)……やばい………((((´θ`llll)))))
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オレにどうしろってんだよ。




おはり




………

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荒倫には夢が詰まっているのだよ!遠慮せずお互い正直にものを言い合えるカップルって希少だし尊い。第三者からめんどくさいって思われるような好き合い方をしてるカップルがどうも好きみたいです。書いてて超楽しかった。
戦うオペレーターが書きたかったってのもあって。オペレーターの子たちだって、最低でもみんな四千点は持ってるんだと思うと胸が熱くなる。
あと何気に当真が個人総合4位の理由を掘り下げて考えた結果っていうのもちょっと入ってます。あのメンバーで4位っていうのは、近中遠距離入り乱れ戦で一対一の個人ランク戦していてあの順位なら、当真の空間把握能力と観察力、洞察力、動向予測能力は天才域じゃないの?と思って、いくら何でもチート過ぎませんかね……。
戦闘シーン書くのも超久しぶりで楽しかった!

2015.9.1





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