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00-05


 
静かに雑誌を閉じ、ぼくは急いで踊り場まで戻った。

同じように慌てた素振りで踊り場まで戻ってくるのは仲井。

「間違えているぞ」と言って、ぼくの大事なルイちゃんを返してくる。

「ごめんごめん」

はいこれ、ぼくは茶道マナーが載った雑誌を返す。


「なんで仲井くんのを取っちまったんだろうね。いやぁ、まじごめんな」

「気にしてはいないが……」


弾まない会話をやり取りして、ぼく達は交換した雑誌に目を向ける。

なんだろう? なんか、あれ、ルイちゃんを見ても嬉しくない……んだけど。

気のせい、か?

仲井に返した雑誌の方が気になってしょうがない。


いやいやいや、でもぼくは茶なんて興味すらないし!
 

仲井が茶好きなのは知っているんだけどな。

だって自己紹介の時、自分から茶には煩いって言っていたから。

堅物な口振りからして茶が好きそうってのは思ったけど。


お互いにちらちらっと雑誌を見やり、今度こそぼく達は退散。

昼休みが終わるまで顔を合わせることはなかったという。

 

それからのぼくは何かがおかしかった。

放課後、家に直行してルイちゃんを堪能する筈が、本屋に直行して茶に関する雑誌を購入。

更に茶屋に足を運んで、熱心にお茶っ葉を見ていた。

お客は老人ばっかで、見知らぬおばあさまから「お茶が好きなんかえ?」と声を掛けられたっけ。


家に帰っても、何故か観るテレビは時代劇ばかり。

アッツイ茶を飲みながら、「この紋所が目に入らぬか!」と決まり台詞を仰る役者様を観るのが楽しくてしょうがない。


我に返って、アイドルが出ているテレビ番組に切り換えても、やっぱり最後は時代劇に落ち着いてしまう。


おかしい、絶対におかしい。

自分のただならぬ変化を感じ取りつつ、学校に登校してみると仲井の様子もおかしかった。



普段なら誰とも関わりたくないですプーイとそっぽを向いている、あの仲井が気付かれないよう女子の観察をしていたんだ。あの仲井がだぞ?

普段だったら予習をしているなり、読書をしているなり、ロンリーウルフのように一人の時間を気ままに過ごしているのに、キャツはうずうずとした眼で女子達の会話に聞き耳を立てていた。


隠しているつもりなのだろうけど、女子観察並びに人間観察に長けているぼくの目は誤魔化せない。

仲井は確かに女子の会話に聞き耳を立て、会話にまじわりたそうだった。



それはまるで“ぼく”を見ているよう。



思わず、ぼくは苦手なあいつに声を掛けたもんだ。



「なあ仲井。お前って合コンに興味ある?」



と。
 

返ってきた言葉は、「あるか!」だった。が、何故か返事と共にぼくの腕を掴んできたという。

態度で興味がありますと言ってくるもんだから、ぼくも仲井も「………」いつまでも三点リーダーを頭上に浮かべていた。
 
 

更に翌日。

今度は仲井から声を掛けられた。

生真面目に着席していたぼくに、「おい」とふてぶてしく声を掛けたと思ったら、



「中井英輔。つかぬ事を聞くが貴様、茶に興味はあるか?」



なんぞと尋ねてきた。
 

「あるわけないじゃんか」


気楽を愛するぼくみたいな男が辛気臭そうな茶を愛する男に見えるかい? と冗談交じりに聞き返す。

「確かにそうだが」

貴様の手に持っているものをみるとつい、な。

物言いたげな眼をぼくの手元に向けて仲井が口をへの字に曲げた。

ぼくは誤魔化し笑い。
手に持っていたのは日本茶の特集が載っている雑誌の切り抜きだったりなかったり。


わざわざファイリングしたんだぜ? 凝っているだろ!


……じゃなくて、そんな馬鹿な!


アイドルじゃなくてお茶の切り抜き? いつからぼくの愛すべきターゲットがお茶になったんだい!


これじゃまるで仲井のようじゃないか!




仲井、のよう?

  
 
 
 

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あきゅろす。
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