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<3>なら、ぼくが作ってやる。
 
 
 
それから数日、ぼくは毎日のように仲井と向井先生のところに行っては和室の鍵を借りた。

  
誘いは仲井から。
 
可能な限り、茶道具を触りたいと向井先生に願い申し出たんだ。
仲井が行くならぼくも動かないといけない(でなければ、相手に睨み殺される!)。

 
最初こそ毎日行くなんてめんどくさいなぁ、とか思ったけど、なんだかんだで最後まで付き合ってしまうもんだからぼくも人が好い。

勿論、向井先生の都合もあるから、和室に行けない日もある。
 
 
そんな時はそそくさと二人で帰るんだけど、そん時の仲井の落胆っぷりったら!

本人は気にしていない素振りを装っているんだけど、ぼくの目には落ち込んでいることが明らかだ。

付き合いの積み重ねで相手の心境が徐々に掴めるようになったぼくは、相手が落胆する度に「明日は美味く茶を立ててやるんだからな」と、さり気なく励ましを送ってやることにしている。
 

今日が駄目でも明日がある。
 
遠まわしに教えてやることで少しでも励ましになれば、と思ったんだ。

ただ、相手は素直じゃないから、「貴様ではまだまだおれの足元にも及ばん」と、クソ生意気な言葉を返してくれる。

その度に励ましいらないんじゃね? とか、思ったり思わなかったり。
 
 
だけどぼくの遠まわしな気遣いは相手に伝わっているようだ。
 
口癖のように「明日があるしな」と呟くところを何度も見かけたし耳にした。

茶道具に触れられる喜びが少なからず彼の中にあるようなんだ。

遺憾なことに好きな気持ちはぼくの中にあるから、心から喜べてはいないみたいだけれど、それでも仲井には思うことがあるようで、毎日健気に和室へ通っていた。

 
元に戻るまで、この光景がいつまでも続くんじゃないだろうか?


そう思うほど和室に通い続けていたある日のこと、事件が起きる。
 
いつものように向井先生から和室の鍵を借りようと職員室に向かっていると、階段途中でMハゲに出くわした。

あ、Mハゲっつーのはこの学校の教頭のことで(名前は確か野津地)、あんま生徒から好かれていない。

ちなみになんでMハゲっていうのは、言わずも分かってくれるよな?

 
Mハゲは向井先生と一緒だった。二人は踊り場で話し込んでいるみたい。

すんげぇ意地悪そうな顔で先生に何か文句を言っているようだったから、ぼくと仲井は顔を見合わせてしまう。


いけないと分かっていつつ、壁際に身を隠して聞き耳を立てる。
 

「用事もない生徒に教室を使用させるのはやめて頂きたいのですが、向井先生。あの和室の費用は他の教室より、数倍値が張っているのですから」


どうやら文句を言われているのは【和室の使用】について、らしい。

つまりぼく等のことで向井先生が文句を言われているんだ。

やっべ、ぼく達が放課後に和室を使っていることがMハゲにばれてやんの。

まじかよ、あいつ、粘着質がやたら高いって有名だから、文句だけじゃ終わらないぞ。


血相を変えたのは仲井だ。

「おれのせいだ」おれのせいで向井先生が。ちょっと事情を説明してくる。

責任を感じて身を乗り出そうとするキャツに少し待つよう体を引き戻す。


今飛び出しても、状況は悪化するだけだ。


その間にもMハゲのこと野津地の嫌味弾丸はヒートアップしていく。
  

「和室の使用許可は、それなりの用途を持った生徒しかできない筈です。なのに貴方は遊び目的の生徒に対し、安易に鍵を貸しているようじゃないですか。管理上、これは問題視されることだと思うのですが? あそこには高価な茶道具も置いてあるのです。勝手に使用されることは学校側にとって非常に迷惑ですよ」
 

例えるならライフル銃からマシンガンにレベルアップしたかんじである。

なにもそこまで言わなくともいいじゃないか。一々々々々々カチンとくる言い方をしてくれやがるんだから、もう。

ムカッと苛立ちを隠せずにいるぼくを余所に、向井先生は穏やかな笑みを貫いたままMハゲの嫌味を受け流した。

それどころか、「あの子達は遊び目的で使用しているわけではないのですよ」和室を利用している生徒を擁護してくれる。
 
 

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あきゅろす。
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