01-13
不貞腐れた気持ちを抱きつつ、ぼくは早く向井先生が来ないかな、とぼやいた。
今日のデート内容は仲井とお二人で学内にある和室ランデブー。
茶具を貸して貰うために向井先生から和室の鍵を貸して貰うために待っているんだけど、なっかなか先生が現れない。
クラスを持っているし、まだSHRが終わっていないのかも。
あの先生はマイペースでとろいからな。
おばあちゃん先生だし、とろさのせいで授業が延び延びになることも多々だ。
教師としては信用があるみたいだけど、生徒の評判は中の下くらい。貴重な十分休みを堪能したいぼくとしての先生に対する評価は謂わずも分かってくれるだろう。
欠伸を噛み締めて宙を睨めっこしていること数分、ようやく向井先生が現れた。
教材を持ってのんびりのほほんと歩んでくる向井先生は、「お待たせしました」悪びれた様子もなくぼく達に微笑んでくる。
次いで、唐草模様の上着ポケットから小さな鍵を差し出してきた。
銀に鈍く光る鍵はやや錆びている。あんまり使用されていないのだと推測できた。
鍵を受け取った仲井はやや嬉しそうに笑みを浮かべて、先生に礼を告げた。ぼくじゃ見られないような優しい笑みだ。ははっ、心に距離を感じたぜ。
「お二人で愉しんで下さいね」
ナニを勘違いされたのか、向井先生はぼく達の仲は良好だと判断したらしい。
そこには触れず、再三再四仲井は先生に礼を告げて踵返す。
向かうは和室。
ぼくを置いてさっさと歩き出すキャツに溜息をつき、「ちょっと待ってくれよ」駆け足で仲井の背中を追った。
「置いて行くのは酷くね? 自分が誘ったくせに」
文句垂れると、
「黙ってついてくれば良い話だろ? さっさと歩け」
だってよ。
こんにゃろう、帰っちまうぜ? 珈琲とオトモダチ、いや恋人になってきちまうぜ?
「この際だからはっきり言うけど、君はぼくの性格より難があるよ。一言で申せば唯我独尊。無愛想。ジコチューだ」
切れ長の目が怒気を纏った。
「一言ではないではないか。今のは三言ほどあったぞ。誰が唯我独尊で、無愛想で、ジコチューだ? 女のケツばかり追っている貴様よりかは二百倍マシだ」
「ぼくは人に優しくできる心を持っているからね。君の五百倍マシだと思っているよ」
「ほぉ、おれが優しくないとでも? こんなにも貴様の世話をしてやっているのに?」
「はぁ?! 何処が? 優しいぼくが君のために付き合ってやってるんだろ!」
どすどすと人差し指で相手の肩を突っつく。
こめかみに青筋が立ったのはこの二秒後。
怒声を張られたのはこの五秒後。
反論して口論になりかけたのがこの十秒後。
まーったく気の合わないぼく等の喧嘩光景を向井先生が面白おかしそうに見守っていたなんて、ぼく達には知る由もなかった。
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