01-06
直後、ぼくの爪先に鋭い痛みが走った。脳内の『おおブレネリ』の音程が盛大に外れる。
悲鳴にならない悲鳴を上げるぼくに対し、フンッと鼻を鳴らして不機嫌に前を歩き出す仲井。
どうやら癇に障ったらしい。
ぷりぷりと憤ってらっしゃる。
しまいには「貴様は根っからの不純者だ!」歩みを止めないまま顧みて、一喝してくる始末。随分ぼくも嫌われたよな。
やれやれと肩を竦め、ぼくは駆け足で仲井の後を追う。
このままとんずらしても良かったけれど、追々が怖いしな。一応クラスメートだし。
「仲井くん。君の家はどこだい?」
話題をかえて空気を緩和しようとするぼくって偉くね?
どんだけ良い人だろう! 普通なら逆ギレして喧嘩の一つでも吹っ掛けるところだぜ?
「貴様に教える筋合いなどない」
んでもって仲井くんってどんだけ悪い人なんだい? ぼくの努力を一々割って砕いて踏んづけてくるんだからもう。
「ナニ通かくらい教えろって」ちなみにぼくは電車通だと気さくに言えば、「バス通だ」近場の駅のバス停からバスに乗っているのだと教えてくれる。
なるほどね。
つまり駅までは一緒に登下校できるのか。
まったくもって嬉しくないのはぼくの性格の悪さのせいだろうか?
内心で溜息をついて肩を落としていると、「落ち込みたいのはこっちだ」仲井が舌打ちをかましてきた。顔に出ていたらしい。流し目にして相手を見やると、表情のない顔が遠い目をしていた。
「茶への知識も興味も残っているというのに、茶に対する情熱だけが失われた。寧ろ、女に対する興味と情熱が増し、茶のことなどどうでも良いと思う自分がいる。それが何よりも苦痛で仕方がない。手前の気持ちと余所者の気持ちが葛藤しているときた」
それはぼくだって同じなんだけど。
自分だけ被害者面するんじゃないぞ。
態度で反論すると、「ふらふらと遊んでいる貴様と違うんだ」おれがどれだけ茶を愛していたか知らないだろ? 茶に対して努力していたか知らないだろ? 勉強しているのか知らないだろ? 知らないだろう尽くしで責められた。
そりゃぼくは仲井じゃないから知るわけがない。
貴方様がどれだけお茶に対して情熱を注いでいたのか、ぼくには知る術がない。
だけど、それは仲井だって同じじゃないか?
女の子好きだというぼくの気持ちを根底から否定しているし、こうしてぼくを嫌っている奴とフレンドリーになろうと努めているぼくの気持ち、お前は分かろうとしていないじゃないか。
口には出せなかったけれど、ぼくはそう思えてしょうがなかった。
「おれの努力を貴様の不純な気持ちで穢させるわけにはいかない。だから、元に戻るまでは嫌でも纏わり付くからな」
嫌悪感すら感じさせてくれる面持ちで、仲井はぼくに宣戦布告してくる。
ここまでこっ酷く言われているんだから反論の一つくらいしても許される気がしたけど、ぼくの一言で余計話が拗れたら嫌だし、億劫でもあったから黙って甘受することにした。ぼくって優しい。
そんな優しいぼくだから、仲井にこんなことを言って場を和ませようとする。
「この機に仲良くなれたらいいな」
「元に戻ったら金輪際、貴様とは関わらん」
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