01-03
「ぼったくりなら店にクレームを入れてやりたいんだけど」
「中井英輔。ほうじ茶を淹れる際、湯の温度に注意しているか?」
「へ?」間の抜けた声を出すぼくに、「茶は温度で味が変わるんだ」それだけじゃない、浸出時間も関係してくる。
仲井が真面目に教えてくれた。
なら、それらに注意すれば店のような美味い茶を嗜めることができるのか?
ぼくの問い掛けにうんっと仲井が頷く。
まじかー!
なら、その注意すべきところを早速押してもらおうじゃないか!
箸を置くといそいそとスマートフォンを取り出して、「何が注意点だって?」再度尋ねる。
「携帯の持ち込みは校則違反ではないか?」
堅苦しいことを言ってくる呆れ顔の仲井に、「いいじゃないか」それよりほうじ茶の温度は何度だって? と笑顔で質問。
「早速今日、試したいと思うからさ。仲井くん、早く教えてくれよ。ほうじ茶がぼくを呼んでいる!」
「……、随分感化されているな。中井英輔。おれより酷いかもしれないぞ」
神妙な顔でぼくを見据えてくる仲井に、ぼくはハタッと我に返った。
携帯を長テーブルに落とし、ズーンと落ち込む。
また、やってしまった。
お茶になると見境がなくなってしまう、これ、激ありえないんだけど。
感化されている?
ちっげぇよ。
お前の気持ちがぼくを支配しているんだって! 断じて、これは断じてぼくの意思じゃ。
「仲井くん…、君のお茶に対する気持ちは底知れないね。敬服するよ。お茶を愛する気持ちはきっと日本一だろうね。で、淹れ方は……」
この期に及んでまだ、お茶の淹れ方を気にしてしまうぼくって一体。
いやいやいや、五パックも買ってるんだぞ? 美味く飲みたいじゃないか!
……嗚呼、ほんっとお茶にしか目にいかないんだけど。
そろそろ女の子に目を戻したい。
半泣きのぼくに若干引きながらも、
「ほうじ茶は香ばしさが命だからな」
約95度でお湯の分量は180cc前後、浸出時間は30秒がベストだと教えてくれる。
すぐさまスマートフォンに入力してメモったぼくは、小さな溜息をついてそれを保存した。
「こんな調子さ。今のぼくはお茶に対して目がなくてね。懐と相談もせず、次から次に茶関連の物を買っていくんだ。君はどうだい?」
「べ、べつにおれのことはいいだろ」
「いいわけないだろ? 一応ぼくの気持ちが君に宿っているんだ。君の言葉を借りるなら、“穢れていないか心配”ってところかな?」
「寧ろおれ自身が穢れそうだ」ドドド不機嫌になる仲井にも、何か遭ったみたいだけどそれ以上のことは教えてくれなかった。
ちぇ、ケチ。
ぼくは教えたのにさ。
置いていた箸を手に取り、のびかけのうどんを箸で挟む。
掻き込むように口内に入れていると、「ナカイくん」と声を掛けられた。
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