<1>やけくそマブダチ!
「中井ぃ。昨日、ファミレスの集まりに来てくれなかったでしょ? 超寂しかったんだけど」
「ごめんなぁ、紗枝ちゃん。この埋め合わせはするから、次回までツケといて」
突然だけど中井英輔のことぼくについて少し語らせてもらおう。
女好きだということはもう知ってくれているだろうけれど、他にもぼくの特徴として多人種に対しフレンドリーを述べておきたい。
自分でいうのもなんだけど、ぼくはクラスの中で極めて中心に立つ人間だ。
昔からそうで、大抵初対面の人間とでも仲良くなれる(一部を除いてね)。
勉強は嫌いだけど行事ごとは大好きで、体育祭や文化祭は積極的に参加。
友達の誘いにも大抵乗っているし、自分から誘うことも多々。
とにかく常に他者と関わっていたい人間だ。
もっと簡潔に言うと大勢でわいわいがやがやしたいタイプだ。
クラスの人気者っつったらナルシー発言に近くなるかもしれないけど、自分の立ち位置はクラスの中心だと自負している。
ある程度の男女とは仲良くできる男だと思っているんだ。
女好きな性格を快く思っていない輩もいるけど、ぼくの個性として受け入れてくれる輩も沢山いる。
誰とでもフレンドリーだしな。
遊びに誘われることも多いんだ。
今も、
「ならさ。今日の放課後、Mックに行こうよ。理恵達も一緒なんだけど、中井がきたら絶対に盛り上がるって!」
「うっはー! 紗枝ちゃんの誘いなら、断るわけには」
ガンッ!
ぼくの机が大地震のように揺れた。
よって紗枝ちゃんと一緒に硬直。
ぼくと紗枝ちゃんの間に国境線を張るかのごとく、逞しい手が割り込んできた。
ぎこちなく腕を辿って人物を確認すれば、引き攣り笑いを浮かべている銀縁眼鏡小僧一匹。
纏っているオーラがささくれ立っている。
ぶっちゃけ怖い。
「失礼つかまつる。いささかの縁あってお約束していたのだが、貴殿、お忘れではないか?」
え、君はいつの時代の人間だい?
日本語を言ったのは分かるけど、節々の単語に激違和感。お前は時代劇の住人か!
ブリッジ部分を押してぼくを見てくる、いや見据えてくる、いやいや睨んでくるクラスメートに「そうでござったそうでござった」ヤケクソで返事した。
しかも時代劇の住人に分かる口調で。ぼくってヤサシーだろ?
「殿方とお約束していたなぁ。忘れていたでござる。失礼致した」
「なら良い。では放課後に」
フンと鼻を鳴らして自席に戻って行く仲井。
その際、振り返って、
「昼休みの約束も忘れずに」
と、のたまってきた。
不覚にもマジ泣きしそうだ。
まじかよ、昼休みもぼくに張り付くつもりかよ。
どんだけぼくのことが好きなんだよ、あいつ!
そりゃ気持ちがチェンジしているからって…っ、あいつは本気でぼくと始終一緒にいるつもりか?! 冗談じゃない。
ぼくの方がストレスで参っちまうっつーの! 昼休みくらい自由にさせてくれって!
「中井。あんた、仲井くんといつの間に仲良くなったわけ?」
そりゃ勿論、ごく最近。しかも不本意。
半泣きになるぼくは「紗枝ちゃん助けて」ストレスで死ぬかもしれないと泣きついた。
紗枝ちゃんはといえば、クラスの中でも付き合いの悪い仲井とぼくが約束を取り付けていることに興味を抱いていたようで、何度も何の約束をしているのか聞いてきたという。
嗚呼、紗枝ちゃん。
約束という約束はぼく等の間にないんだよ。
しいて言えば、しいて言えば、元に戻るまで協力し合うって約束なんだけど。
[次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!