00-07
「そういう円は気になる男とかいるの?」
昇降口で靴を履き替えながら、私は円に嫌味ったらしく質問を飛ばす。
どうせいないんでしょ、の意味合いで聞いたんだけど、思いのほか、円は頬を桜色に染めた。
伊達に連れ添っているわけじゃないから、彼女の反応に私は下靴を落とす。
「え゛。嘘でしょ、まさかいる……、の?」
「そ、そんなことないよ」
そんなことあるでしょー!
その反応っ、どんだけ付き合い長いと思ってるのよ!
ッハ、ということは、私に黙って恋を、彼女は恋を、親友の私に黙秘して恋をしているの?!
そうなの、そうなのね、そうなんでしょ!
ダダダダーン!
ベートヴェンが作曲した『運命』の出だしが私の脳内で流れた。
嘘だ。
まさか、円が私というオトモダチを差し置いて恋をしているだなんて。
……誰?!
円を誘惑したヤラシイ男って誰なのよ!
さっきの東西かっ、いやあいつには本条がいるって噂が。
じゃあ他の男で同じクラスメートの山内 青志(やまうち あおし)か。
はたまた錦 雪之介(にしき ゆきのすけ)か。
いや、学級委員の木下 柾谷(きのした まさや)。
どいつもこいつも怪しいわよっ……、誰?!
私の目を掻い潜って円を誘惑した男って!
きっと学校内の男じゃないわよね。
私の目を掻い潜って円に接近したってことは、私の目の届かない範囲。
つまりスパルタ塾か!
「まままま円。私、急にメンズへの興味が出てきちゃったなーっ。
あんたの気になる男を紹介してもらいたいな。あ、べつに取ろうとかまったく考えてないから」
寧ろどんな男か見極めたる。
ヘタレのオンナたらしのチャラ男だったら、すぐさま円から引き剥がす準備をしなければ!
闘争心を燃やす私に対し、「お友達じゃないの」円はポッと頬を赤くしたままポソリと呟く。
嗚呼、まんま乙女モード。
私にはない乙女オーラムンムン。
彼女の空気はまさに春だ。
軽くショックを受けている私を余所に、ローファーを履く円はお兄ちゃんのお友達なの、と小声で教えてくれる。
お兄ちゃんのお友達。
円のお兄ちゃんって確か二つ上で高三、有名高校に通っているエリート生だったよね。
円もエリートだけど、私と一緒にこの高校を受験してくれたんだよねぇ。申し訳ない。
……あれ、確か円のお兄ちゃんって最近悪評じゃなかったかしら。
「円のお兄ちゃんって今、ちょっと悪ぶってるって聞いているけど」
「うん。不良さんなの。私も驚きで…、中身は変わっていないけど、身なりは派手になったよ」
ということは、円が気になっている男って不良?!
結論に達した私は慌ててその答えを彼女に突きつける。
耳まで真っ赤に染める円は、「カッコイイの」と小声も小声でポソポソボソボソモゾモゾ。
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