Dark
楽園の蜘蛛[静凛]
『しょうがないなぁ。』
そう言って君は、小さい子にするみたいにオレの髪を撫でた。
その笑顔が、
奇跡みたいに綺麗だ、と思った。
ガチャガチャ…
無機質な鉄の扉につけられた沢山の鍵を、オレは一つ一つ外す。
最初は一つだけだった鍵は、日増しに増えていく。
それは、何か不都合があった為では無く
いわば、オレの執着が形になったもの。
逃げないで攫わないで消えないで――。
そうオレが狂う程に願う度、鍵を増やしていった。
ガチャン
最後の鍵を外しながらオレは、自分の思考に苦笑する。
狂う程に…って言い方は可笑しいか。
だってオレは、
ギィ…
扉をゆっくり開けながら、オレは嘲笑う。
―オレはとっくに、狂っているんだから。
「…っ!!」
中にいた少年はオレを見て、可哀想な位、体を震わせた。
それに気付きながらも、オレは素知らぬ振りで笑いかける。
「…おはよー、りっちゃん。よく眠れた?」
オレに怯えながらも、後ろの、開いた扉を、焦がれるように見つめる彼の前で、見せつけるように大きな音をたて、扉を閉めた。
施錠するオレを、絶望的な瞳で見る彼に、オレは殊更優しく笑う。
馬鹿だなぁ、りっちゃん。
オレが君を、逃がすと思う?
近寄り彼の腕を掴むと、彼は、ひっ、と息をつめた。
そのまま細い体を押し倒し組み敷くと、彼は錯乱したように暴れ始める。
「…嫌だっ!!やめっ…っう」
唇を深いキスで塞ぎ、華奢な腕についた鎖を、壁の杭に引っ掛けて拘束した。
慣れた手順で彼の服を乱し暴く。
性急に愛撫を進めると、彼の大きな瞳から、宝石みたいな涙が、ホロリと伝い落ちた。
嗚呼、まだ綺麗なものを、君は沢山もっているんだね。
絶望と憧憬が交じり合った複雑な胸の内を押し込めて、オレは彼の涙に唇を寄せた。
優しくて暖くて、
眩しい程に、綺麗な君。
その美しさが、オレには怖かった。
だって、オレは汚い。
誰より醜くて汚いオレが触れたら、きっと君は汚れてしまう。
だから触れてはならない、近付いてはいけない、
そう自分を戒めていた。
…でも、
今更、離れるなんて、出来なかった。
遠くからただ見守るには、
オレは君に惹かれすぎていた。
そしてオレは、思い至る。
綺麗すぎて近付けないなら、
―――汚してしまえば、いい。
「…っいや、だっ………ああっ、」
仰け反る体を、かき抱く。
何度も何度も、オレで君を汚す。
「愛してるよ。」
「…っ、」
君の耳に、毒を注ぎ込む。
さぁ、もっと墜ちて。
オレに囚われてくれるなら、
その感情の名なんて、どうでもいい。
恐怖でも嫌悪でも憐憫でも同情でも
――殺意、でも。
「っ、ああああっ…!!」
白い壁に阻まれた空を、君は仰ぐ。
飛べる筈の羽をもがれた、
君は哀れな蝶で、
オレは蝶に恋した、愚かな蜘蛛。
『しょうがないなぁ、しずかちゃんてば。』
恋した君の笑顔が思い出せなくなりそうでも、
それでもオレは、君の羽を奪う。
オレは、蜘蛛。
愚かな、蜘蛛。
巣にかかった憐れな獲物を、
一生、愛で愛す、
愚かで幸せな、蜘蛛。
此処は、檻と言う名の楽園。
(誰が何と言おうとも。)
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