Dark
鳥籠[西凛]
カチャ…
「………。」
小さな金属音を敏感に感じ取り、オレは顔を上げた。
カチャカチャ、と音をたてるのは、この部屋唯一の出入口である、頑健な扉。
オレがベッドから身を起こし、見守る中、やがて扉はゆっくりと開けられた。
「………、起きていたのか。」
じっと見つめるオレの視線を感じ取り、入ってきた人物は優しく瞳を和ませた。
…といっても、表情自体は全く変わり無いので、殆どの人は、その変化に気付く事は無いだろうが。
バタン、と後ろ手に扉を閉め、しっかりと施錠する彼に、オレは思わず苦笑する。
――そんな事、必要ないのに。
「何も、変わりないか?欲しいものは?」
オレのすぐ隣、ベッドサイドに腰を下ろし、色々と気遣ってくれる彼に、オレは笑いながら、かぶりを振った。
「何も。」
「…痛いところは?」
頬を撫でる優しい手に、擦り寄りながらオレは瞳を閉じる。
「無いよ。」
「…苦しくは?」
「無い。」
伏せていた瞳を開けると、至近距離の彼の瞳は、不安そうに揺れていた。
…嗚呼、なんて、
「……哀しくは、無いか?」
怯える瞳に、オレは甘く笑いかける。
「……オレは、幸せだよ。ハルちゃん。」
オレの言葉に、西崎は微笑った。
泣く一歩手前のような、けれど幸せそうな顔で。
思わず、彼に抱き付いたオレの足首に嵌められた銀色の鎖がシャラ、と音をたてた。
「…ハルちゃんが、護ってくれてるから、オレは痛くも無いし、哀しくも無い。」
「…そうか。」
そう呟いて、安堵の息をつく彼は、きっと何も分かっていない。
なんて、愚かしくて
なんて、愛しいひと。
色んなものに、オレが傷つけられるのが怖くて、
誰かにオレをとられてしまうのが怖くて、
鎖に繋いで閉じ込めたけれど。
もしオレが、
嫌だ、とか
痛い、とか
哀しい、なんて言ったら
きっと直ぐにも、この仮初めの鳥籠を、壊して
オレを逃がしてしまうんでしょう?
それを恐れているくせに、
何度でもオレに聞いてしまう、
その愚かなまでの優しさにこそ、
オレが囚われていると、知りもしないで――。
「…凛、オレは、」
「………………。」
彼の言葉を、人差し指一本で遮って、
オレは、笑んだ。
「…大好きだよ、西崎。」
だから早く、
その鍵を捨てて。
逃がすなんて選択肢ごと、
捨ててしまって。
ねぇ、?
囚われたのは、
どっち?
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