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Dark
6


「…………っ?」


しがみ付いた腕から、銃が落ちる。
カシャン、と音をたてて床に落下したそれは、幸い暴発する事無く沈黙した。


安堵しつつも戸惑うオレの体を、黒さんは抱き締める。


「なっ、……離して下さ、」

「なぁ、りぃ」


オレの抵抗を無視し、黒さんは抱き潰す様に腕に力を込める。ミシ、と骨が嫌な音をたてた。
オレの耳に触れそうな位唇を寄せ、毒の様な囁きを流し込む。


「お前、さっき誰の事を考えた?」

「……え?」

「アレを、自分の手で殺せなくなる事を恐れたか?御門の為に人を殺せなくなる事に恐怖を感じたか?」

「……っ、」


声を詰まらせたオレに、黒さんは喉を鳴らして笑った。
違うよな?と問いの形に擬態した断定が、甘くオレの耳に囁かれる。


「さっきの一瞬、お前の頭を占めたのはオレだけだった筈だ。……オレに人を殺させたくない、それだけだったろ?」

「っ……、」


今、最も見たくない部分を、容赦無く暴かれる。
反論の言葉は、全く浮かばなかった。


オレがさっき咄嗟に思った事は、黒さんの言葉通りだったから。


「……無理なんだよ、りぃ」

「っ!?止め、」


ベロリ、と黒さんの舌が、オレの首筋を舐める。吸血鬼の様に首の付け根に顔を埋めた黒さんは、そこに歯をたて跡をつけた。


「お前は、オレを切れない」

「……っ、オレが、愛しているのは暁良ですっ!!」

「あぁ。それが?」

「え……?」


拒絶の言葉をぶつけても、黒さんは事も無げに頷く。
呆然としている間に、今度は唇に噛み付かれた。


「…いっ、!?」


怯んだ隙に、歯列を割って舌が侵入して来る。
足払いを掛け、その場に押し倒された。


ガタ、ガタンッ


荷物の上に倒れこんだオレを、そのまま押さえ付け黒さんは蹂躙し始めた。


「嫌だっ!!」

「止めたいなら、殺せ」

「っ!!?」


大きな掌が、服の間から入って来た。敏感な部分を明確に擦る手に息が乱される。
押し返そうと藻掻き、強く拒絶したオレに返された言葉に、瞠目した。


至近距離で、漆黒の瞳とかち合う。
吸い込まれそうな黒の奥に、狂気を見た。


「お前が誰を愛していようと、オレが愛しているのはお前だ」

「……は、……」

「誰にも、渡さない……りぃ、りぃ……凛」


甘い声音が、懇願する様な切なさを帯びる。
いつも余裕で堂々としている人が、こんなにも必死に伸ばした手を、


オレは、振り払えるのか?


「……っ、」


上手く頭が働かない。
その間にも、黒さんの唇や手が、オレの体を這う。


ぼんやりと向けた視線の先、男が横たわっている。
そういえば、いつの間にか悲鳴が止んでいた。


恐らく痛みに失神しているんだろうが、あの出血を放置していてはいずれは危うい。


分かってはいても、動けない。


……こんな事は、きっと悪い夢だ。


目が覚めたら、暁良の意地の悪い笑顔が傍にあって、何時もの日常が始まる。
黒さんも前のままで、時折『あんな男早く捨てろよ』なんて言いながら笑うんだ。


早く、覚めろ。


「…………」


暁良、と
声無く呟いたオレの目からこぼれ落ちた雫が、コメカミを伝って流れ落ちる。


天に向けて伸ばした手は、途中で黒さんに絡め取られた。


床に縫い付けられたまま、オレは呟く様に歌を口ずさむ。
暁良が目覚めたら、聞かせる筈だった言葉をのせて。


「…………」




――好きです。


短い、たった四文字の言葉の羅列。


ずっとずっと、飲み込み続けたソレは、


一瞬で、何の意味も持たないガラクタへと変わった。



これは、鎮魂歌。



貴方にはもう永遠に届かない、
恋のうた。



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あきゅろす。
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