Dark
破滅志願 [蓮凛]
「……それが、お前の答えか。」
ゴゥ…
ビルの隙間から、強い風が吹き上げる。
今にもその風に攫われてしまいそうな、細い体。
落下防止のフェンスの上に、腰掛けている少年は、ゆっくりと振り返った。
喜怒哀楽を体全体で表す、一日一日を楽しそうに生きていた彼は、もういない。
何の感情も感じさせない顔で、それでも彼は、酷く、綺麗に笑った。
「うん。」
そのまま、青空にとけてしまいそうな透明な笑顔で、彼は簡潔にそう返した。
「……そうか。」
オレも、それだけ短く返すと、彼は、少しだけ、昔と同じような苦笑をみせる。
「…それだけ?」
オレも自然、苦笑を浮かべた。
「…それ以外、何言えってんだよ。」
「…んー。そうだなぁ。……お前らしくない、とか、そんなに弱くねぇだろ、とか?」
彼は、笑っていた。
けれど、その瞳には、痛々しいまでの傷が見える。
その言葉はきっと、たくさんの人にかけられたもの。
彼を愛した奴らによって、彼はもう後戻りできない所まで、追い詰められた。
愛しているが故の、
純粋で、残酷な言葉によって。
「…言わねぇよ。」
もう、充分だ。
もう、お前は、充分に苦しんだ。
だからもう、
――自分を、責めるな。
「…お前は、お前だろ。」
呟いた言葉に、彼は目を瞠る。
やがて、ゆっくりと、泣きそうに顔を歪めた彼が、
哀れで、
―――目も眩む程に、
愛しかった。
ガシャ、
フェンスに手を掛け、彼の所まで登る。
手を伸ばす前に、華奢な腕が絡み付く。
「…っ、ん」
互いの歯がぶつかり、痛みを感じたが、そのまま息も奪い尽くすキスを仕掛ける。
懸命に舌を絡め、縋り付く彼が、ただ、ただ
愛しい。
「……どうしよ……、オレ、泣きたいくらい、お前が好きなんだけど。」
大粒の涙を零しながら、彼は幸せそうに、笑う。
「…オレは愛してるぜ?」
涙に口付けながら、そう告げると、彼は、幼い子供のように、無邪気に笑った。
「……でも、ね?………ごめん、一緒に生きてとは、言えない。」
ギュウ、と、別れを惜しむように、腕の力が強くなる。
そんな彼を逃がすまいと、強く抱き締め返しながら、オレは『馬ぁ鹿、』
と呟いた。
「…そんな言葉、いらねぇよ。」
魂を磨耗してまで生きるお前を、オレは見たくない。
「…もっと、似合いの言葉があんだろ?」
オレの言葉に、彼は、虚を突かれたように目を見開く。
オレが、指の一本一本を絡め、彼を空に押し倒すように体を傾けると、
彼は、
綺麗に、笑んだ。
「……一緒に、消えてくれる?」
「当り前、だ。」
華奢な体が、ゆっくりと空中に投げ出される。
離れないように、抱き寄せれば、
同じように、オレに絡められる、彼の腕。
これは、最良の終わりでは無い。
本当は、いくらでも選択肢はあって、
共に生きる道も、
きっとある。
オレ達は、間違った道を選んでいるのかもしれない。
それでも、
いいんだ。
幸せな結末は、いらない。
(欲しいのは、至上の瞬間。)
END
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