Dark
5
辺りに響いた、渇いた破裂音。
広がる火薬と鉄のにおい。
「っあ"ぁああああ!!!」
悲鳴をあげて、床をゴロゴロと転がる男を、オレは呆然と見た。
男は体をくの字に曲げ、右足を抱えている。
押さえた指の間から流れ落ちる深紅が、床を鮮烈な色に染め上げた。
「…………」
オレの手の中でズシリと重さを主張しながらも、未だ何の役にもたっていない鉄の塊を、見やる。
「……なんで」
オレはまだ、引き金を引いてはいない。
なのに、何故。
「ぅあぁああっ!!」
……コツ、
男の悲鳴に交ざり、硬質な靴音が響く。
男の背後の暗闇から、ゆっくりと影が滲み出す様に、何者かが姿を現した。
「……なんでっ……」
オレの口からは、同じ言葉が再びこぼれ落ちた。
壊れた機械の様に、そればかりが頭の中を埋め尽くす。
なんでなんでなんでなんで何で何で何で何で何で……何故!!
ガンガンと、耳元でドラム缶を打ち鳴らされたかの様な強烈な耳鳴り。
連鎖して起こる頭痛と吐き気。
蒼白になっているであろうオレを見て、その人は漆黒の瞳を細め、
甘く、笑んだ。
「鬼ごっこは終わりだぜ……りぃ」
「何で……っ、……黒さん!!!」
オレは、慟哭するように叫んだ。
彼の手の中には、オレのと同じ鉄の塊。
硝煙のにおいを纏った黒さんは、また一歩オレへと近付いた。
「何で?……それは何処にかかる言葉だ?」
「…………っ、」
後退るオレの靴が、ジャリ、と音をたてる。
笑顔を浮かべているのに、オレは威圧されたかの様に体が強張った。
場違いな程、柔らかな笑みに目を奪われる。
オレの知る黒さんは、こんな狂気じみた笑い方をした事が無かった。
「何で此処にいるのか、か?……それなら、お前を迎えに来た」
帰ろう。りぃ、と手が伸ばされる。
一瞬、固まってしまったが、オレは大きくかぶりを振った。
「かえ、らない……」
帰れない。
その言葉を飲み込み、オレは目の前の人を睨み付けた。
「やる事が、ある。……貴方のところには、もう……戻らない」
「……やる事?」
オレと黒さんの視線がかち合う。
彼はオレに手を差し伸べたまま、もう一方の手を上げた。
パァン、
「っひっ、ぎぁああっ!!」
「っ!!?」
無造作に構えた拳銃で、視線を向ける事無く黒さんは、男の足を撃ち抜く。
むごたらしい悲鳴が上がるが、黒さんは、笑みを崩さない。
「コイツを殺す事か?……なら、オレが殺ってやるよ」
「止めっ、」
息を飲むオレに構わず、黒さんは再び銃を男に向ける。
ドクン、とオレの心臓が嫌な音をたてた。
「オレが消してやる」
「っ、駄目ぇええ!!!」
悲鳴じみた叫びが、口から洩れた。
拳銃を投げ捨て、オレは黒さんの腕にしがみ付く。
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