Dark
3
※武藤視点
「…………」
左膝の上に乗せていた頭が、小さく身動ぎをする。
手触りの良い漆黒の髪に指を通す様に撫でると、閉ざされていた目蓋がゆっくりと上がった。
「……起きたか」
「……いま、なんじ……?」
寝起きの擦れた声で問われ、オレは腕時計に視線を落とした。
「まだ夜明け前だ。……もう少し、寝てろ」
「……いい。目、覚めちゃった」
目を擦りながら体を起こそうとするのを止め、再び横にならせると、不満そうな目で睨まれた。
それを宥める様に髪を撫で、笑みを浮かべる。
「休めるうちに、休んでおけ」
「…………」
不満そうではあるが、反論は無いのか、そのまま気紛れな猫の様に目を細める彼の髪を、オレは撫で続けた。
「……リーダー格の男の所在が掴めそうだ」
「!」
今まで無言で作業を続けていた西崎が、ボソリと呟く。
息を飲む音と共に、細い体が揺れた。
「……これでラスト」
「あぁ。もう少し待て」
呟くのに、西崎は淡々と返す。
正面、左右と三台置かれたディスプレイの前で黙々と作業を続ける西崎の後頭部を、ボンヤリと見つめる瞳からは、感情を読み取る事は出来ない。
「……やっと」
「……良かったな」
「うん」
淡い笑みを浮かべる彼に、オレも口角を僅かに上げた。
今まで、捕まえた獲物は全て御門家に渡した。
だが、そいつらを渡す事を条件にコイツが得た権利……それは。
『主犯格の処分権』
つまりは、リーダーだけは御門家に渡さずとも、コイツの手で消す事が許された。
手を汚す事を、許されたんだ。
良い訳あるか、と《陰/陽》の連中に聞かれたら怒鳴られた上に殺されそうだが、オレはコイツを止める気は無い。
《陰/陽》を抜け、《ケルベロス》に泣き付くでも無く、コイツが頼ったのはオレら二人だけ。
御門暁良を恋人として愛しながらも、黒龍を特別の位置に置く事に苦悩し続けたコイツの弱音も、
御門暁良を失いかけたコイツの慟哭も、懺悔も、全てオレ達だけに吐き出してくれたものならば、
オレ達は、何があろうとも、お前の味方であり続ける。
「……よろこんで、くれるかな」
例え世界中が、お前を間違えていると指差し、正そうとしたとしても、オレ達二人だけは、お前の背を押そう。
目を瞑りながら、独り言の様に呟くお前の頬をゆるりと撫でた。
「……あぁ」
正論も倫理もくそ食らえだ。
間違いなどと、言わせない。
神にだって、正させない。
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