Dark
君へ捧ぐ鎮魂歌(レクイエム)[暁凛←???]
ゴォオオ…
風が唸り、黒煙を巻き上げる。
月の無い夜空を焦がす勢いで、天高く上る火柱が、辺りを赤く照らす。
ブレーキ痕の残るアスファルトも、大破した壁も、呆然と佇む少年らの蒼白な顔をも。
「…………ぁ、」
息を吐き出した様な小さな音が、一人の少年から洩れた。
その少年の存在に気付いた周りは、驚愕に肩を震わせる。
だが声をかける者はおらず、耐えかねた様に視線が逸らされた。
「…………、」
ヨロヨロと覚束ない足取りで、足を引き摺りながらゆっくりと少年は、一歩進む。
一歩…一歩、
近付く度に、熱風が少年の黒髪を舞い上がらせるが、少年は熱さなど感じていない様に、炎を凝視する。
やがて、ガクリと、
糸の切れた操り人形の如く、その場に少年は崩れ落ちた。
「…………っ、」
ヒュウ、と息を吸い込むと、引きつれた音がした。
「………っあ、」
渇いた喉の奥から、絶望がせりあがって来る。
臓腑ごと吐き出してしまえとばかりに、少年は叫んだ。心に巣食うどす黒いモノが命ずるままに、吠えた。
「……っぁ、あぁああああああああ!!!!!!」
風に煽られた火の粉が、煌々と降り注ぐ。
パチパチと爆ぜる炎の音に混ざり、遠くからサイレンの音が聞こえる中、
魂を吐き出す様な、痛々し過ぎる咆哮が、響いていた。
――その日から陰は《陰/陽》から、姿を消した。
(↓※朱雀視点)
――ガチャ、バンッ
乱暴な音をたてて、背後の扉が開いた。
其処からドカドカと足取りも荒く、数人が傾れ込んで来る。
パソコンのディスプレイにのみ注いでいた視線を、オレは数時間ぶりに漸く外した。
「何か分かったか?」
一見、美少女のような容姿の青は、テーブルの上にフルフェイスのメットを投げおくと、厳しい表情をオレへと向ける。
「……これ見ぃ。」
オレはディスプレイを、やや乱雑な手つきで弾いた。
「…奴ら、《hell;mode》の潜伏先や。」
――《hell;mode》
新参のチームで、そこそこの力量を持った人間が集まったが為に、勘違いしおった厄介な連中。
急激に勢力を広げた血気盛んな奴等は、してはいけない勘違いを、した。
天空の星を打ち落とそうとする、暴挙。
この街の二大勢力の片割れ……しかも、極道の跡取りである御門が総大将である《ケルベロス》に喧嘩をふっかけたのだ。
それによって引き起こされたのは、
本来ならば、起こり得ない惨劇――御門暁良の、事故。
あんな殺しても死にそうに無い男が、
車に細工された程度でアッサリと事故り、意識不明の重体。
…オレ等の大切な、龍の掌中の玉も同時に奪われた。
多分それこそが、御門暁良の真の目的。
「今から向かう。」
「待ちや。」
潜伏先をチェックし、直ぐ様踵を返し走りだそうとする玄武を止める。
訝しむ目の玄武と白虎、理解の早い青は、眉間に深いシワをきざんだ。
「…もう遅いゎ。間に合うなら、さっさと連絡しとる。」
「…な、」
「疾うに、潰されとった。…白さんが、確認した。」
潜伏先は壊滅。そこにいた筈の幹部連は全員連れ去られた後。
……傍に、随分腕の良い情報屋がおるみたいやなぁ、
なぁ?―――陰。
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