Dark
誓い[陽陰]
※ヤンデレに入れましたが、死にネタでもあります。
暴力(流血)シーン的表現があります。お気を付け下さい。
「……何で笑ってるの?」
ポツリ、と小さな声で彼は呟いた。
まるで迷い子のような、所在無げに揺れる瞳に、オレは愛しい気持ちのまま、微笑みかける。
『なんで?』――それはね、
「…嬉しい、から。」
擦れて聞き取り辛い声が出た。
けれど彼には届いたみたいで、大きな瞳を、更に瞠る。
彼、陰の手がカタカタと震えた。
オレの首を絞めていた細い指から、振動が伝わってくる。
「な、んで……オレ、お前を、」
殺すんだよ?と、
稚い子供のように無垢な声が、呟いた。
「はい。……ソレこそが、オレが望む、至上の幸福。」
うっとりと呟き、オレは笑む。
「…オレに、殺されたいの?」
「はい。」
「…だから、オレ以外の人に触れたの?」
「はい。」
「…だから、オレ以外の人に、触らせたの…っ?」
「はい。」
ギリッと爪が食い込む。
顔を歪ませ、力の限りオレの首を締めあげる陰に、オレは愛しさが込み上げた。
だって、君は、誰にでも優しくて暖かい。
一度でも懐に入れてしまった人なら尚の事、与えるばかりで満足してしまう。
優しい君に、暖かい君に惹かれたのに矛盾しているかもしれないが、
オレは、それ以外の君が欲しい。
暖かくなくていい。
優しくなくていいから。
他の誰とも共有しない、
君の唯一を、下さい。
「……酷い人だね、陽。」
泣きそうな顔で、陰は微笑う。
指の力を緩める事無く、
――彼はそっと、オレに口付けた。
「……それでも、
愛してるよ。」
そう呟いて、彼は、艶やかに笑んだ。
薄れゆく意識の中、オレは枕の下に手を伸ばす。
探る指先に、カツン、と硬質なモノが触れた。
「………陽を殺したら、オレはどうしたらいいんだろ?」
オレの瞳を覗き込みながら、独り言のように陰は言った。
何かを畏れている素振りは、まるで無い。
純粋なる疑問。
「……ずっと此処にいても、誰か探しにきちゃいそうだし…………何処かに隠れる?…………………………………………ねぇ、陽?」
聞いてる?と言いたげな瞳が、霞む視界の中、ぼんやりとオレを見ていた。
もう、頭も働かなくなってきた。
視界も聴覚も、遠退いて行く。
嗚呼、でも
指はまだ、ちゃんと動く。
だから、大丈夫。
そんな泣きそうな顔、しないで?
「……………………独りは、嫌だよ………?」
その呟きに、オレは狂わんばかりの愛しさと歓喜を感じながら、
掌に握り締めたものを、力一杯、
彼の首めがけ、
――振り下ろした。
ピシャ、
為し終えたオレが、最期に見たのは、
とても幸せそうな、真っ赤に染まった彼の笑顔。
大丈夫。
オレが君を置いて行く筈無いでしょう?
オレを殺すのが、君の役目なら、
君を殺すのは、
勿論オレの、役目。
君は、未来永劫、オレだけのもの。
神様にだって渡さない。
END
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