Parallel
11
こんな想いをするくらいなら、心なんていらなかった。
それなら、傍にいられたかもしれないのに。
嗚呼、神様、
得られないなら、
寧ろ出会うんじゃなかった、と思う事は、罪でしょうか。
……ジャリ、
「!?」
地を踏み締める音に、我に返る。
『…死にたいのか。』
聞き馴染んだバリトンは、オレの幻聴。
アイツは、こない。
アイツじゃない。
それは分かっている。
ならば、
この人は、誰?
長身の影が、眼前に迫る。
夜目には、その人がどんな表情をしているかも分からないのに、
不思議と、逃げる気は起こらなかった。
「…迷子か?坊主。」
低くて甘い声音が、耳に心地良い。
「…………、」
淡い月光に照らされた、漆黒の髪。
優しく細められた、闇色の瞳。
目も眩むような美貌の主は、此方を安心させるような笑みを浮かべ、オレの目線に合わせるように屈んでくれた。
「こんな所にいつまでもいると、風邪ひくぞ。…家まで送ってやろうか?」
何故か胸を締め付けられるような感覚を覚え、眼前に居る人を、瞬きも出来ずに見つめると、
その人は気遣わしげに眉をひそめ、
長い指で、オレの涙をはらう。
「……泣いていたのか?」
全てをやり直す事は出来ない。
あの日には、帰れない。
小さなズレはいずれ大きな歪みになる。
それなのに、
神はかくも、
運命は、かくも、
気紛れで残酷なものなのか。
遅すぎた始まり。
(それは救いか、)
(それとも悲劇の幕開けか)
END
[*前へ]
[戻る]
無料HPエムペ!