Parallel
8
帰るのが、嫌なわけじゃない。
否定の言葉は、オレが口にする前に遮られた。
ダンッ、
「…っ!!」
近くの壁に押さえ付けられる。
直後、顔の両側に手をつかれ、囲い込まれた。
至近距離には、いつもは甘い笑みを浮かべる美貌。
今も変わらず笑みは浮かべている…いるのに、その瞳が、甘さを打ち消す。
ギラつく瞳は、
まるで、餓えた獣。
「……御門の傍にいたくないなら、オレのとこ、おいでよ。」
ね、と彼は笑う。
笑うが、オレは力が抜けなかった。
蜘蛛の巣に囚われたまま、安心する虫なんていないのと同じ。
今、オレは完全にこの人の獲物だ。
「………オレ…」
混乱する頭で、考える。
確かに、御門のところには居れないかもしれない。
でも、だからって、他の人の手を取る気も無い。
「…オレ、は」
「……大切に、するよ?」
「え…?」
志藤さんは、笑みを浮かべていなかった。
薄い色合いの瞳が、真っ直ぐにオレを見る。
「泣かせない。……いらない、なんて絶対言わない。」
「っ、」
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