Parallel
9
「…………。」
押し倒され、両手を縫い付けるように掴まれたまま、オレは男を見上げる。
それは、不思議な感覚だった。
恐怖でも嫌悪でも無い気持ちが、オレを支配する。
心は、酷く凪いでいた。
黒豹を思わせる、しなやかな体と鋭い瞳を持つ男に、オレは見入られていたのかもしれない。
抵抗もしないオレを、真っ直ぐに見下ろしていた男は、獣のように、オレの喉元に噛み付いた。
「っ…、」
鋭い痛みとともに、鉄さび独特の臭いが鼻をつく。
唇をオレの血で濡らした男は、自分の襟元に指を掛け、ネクタイを引き抜きながら、獰猛に笑った。
「生きる事に理由がいるなら、オレのモノになれ。」
ちゅ、と唇が触れ合う。
瞠目するオレに男はもう一度唇を重ね、至近距離で、酷く愉しそうに笑んだ。
「オレがお前に、存在理由をやるよ。」
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