Parallel 5 バサリ、 「…っ?」 音と共に、視界が闇に覆われる。 暖かな重みと、嗅ぎ慣れないフレグランスに、それが男のコートだと思い至る前に、男はコートごとオレを肩に担ぎあげた。 「なっ…、」 荷物のように運ばれ、目を見開くオレに構わず、男は大通りへと歩きだした。 路肩に寄せてある、黒塗りのベンツに男は近付き、ドアが開くと、中にオレを押し込む。 「…っ、」 ドサリ、と少々乱暴に、オレを投げ、男はそのまま自分も車へと乗り込む。 「…出せ。」 「は。」 低く男が命令すると、運転席にいた男性が短く返し、車はオレの意志などお構い無しに動きだした。 「…………何なの、アンタ。」 憮然と呟くと、男は口角を上げ、オレを見た。 「…どうせ死ぬなら、何処だって同じだろ?」 そう皮肉げに笑われてしまえば、反論など出来ない。 どうせ、今のオレには、帰る場所など無い。 心配してくれる人もいない。 なら、何処で朽ち果てようとも、同じ事。 オレはそれ以上男に突っ掛かる事なく、過ぎて行く窓の外の景色を、じっと見つめていた。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |