Parallel
4
※志藤静視点です。
「ぎゃっ!!」
「…………」
ゆっくりと歩いていたオレの耳に、悲鳴が届く。
追い詰めたかと、大した興味もなく投げた視線。
しかしオレはその先に、予想外の場面を捉え、目を見開いた。
行き止まりの路地。囲まれた男達。それを追い詰める男達。
思い描いた構図は合っているのに、決定的に違うものがある。
「……何が起こった」
囲い込み蹂躙するのは龍の配下で、追い詰められている方が己の部下だった。
「っ……!」
呆然と呟いたオレは、ぞわりと嫌な感覚に襲われ、その場を飛び退る。
間髪入れずに振り下ろされたのは、鈍色を放つ鉄パイプ。
カァン、と硬質な音が鳴り響いた。
ゆらり、と身を起こしたのは、大柄な男。
闇に浮かび上がる白い短髪。
ライダースーツの上からでも分かる、彫像のような逞しい体躯。大きく寛げられた胸元から覗く褐色の肌は、傷だらけだ。
肉食動物を連想させる男は、ギラギラと輝く赤い瞳にオレを映す。
野性味の強い美貌に、歪んだ笑みを刻んだ。
「避けんじゃねえよ」
ここにきて、まさかの幹部登場。
しかも、四天王が一角、白虎。
予想外の事態の連続に、思わずため息がこぼれそうになる。
一体、何が起こっているんだ。
「久しぶり、白虎。相変わらず攻撃的だねぇ」
「そういうお前は、相変わらずクソむかつくな。そのスカした面を屈辱に歪めてやれるのかと思うと、笑いが止められねえよ」
相手の感情を逆撫でするように、にやりと口角を吊り上げた。
いつもは簡単に釣られて殴りかかってくる筈の男は、今日に限って何故か挑発には乗らなかった。
振り上げた得物を肩に担ぎ、獰猛に笑う。
「余裕ぶってねえで、たまにはお前も、みっともなく地面を這いつくばってみろ」
「……」
背後には、人の気配。
おそらく退路は断たれている。
この馬鹿に、そんな頭脳があったのかは甚だ疑問だが、どうやら罠に嵌められたのは、こっちらしい。
「……ごめんね、白虎」
「あ?」
「ずっとお前のこと、ただの単細胞だと見くびってたわ。罠を張るような知能があったんだね」
「ぶっ殺されてえか」
赤い目を、細く眇める。
だがやっぱり挑発される事無く、白虎は低く凄むだけだった。
「そこで殴りかかってこないとか、本当、どうしたワケ?いつからそんな、穏やかになっちゃったの」
「オレの案じゃねえのは事実だしな」
「……は?」
白虎があっさりと投げ寄越した言葉に、オレは目を丸くする。
分かり易く驚愕の表情を浮かべるオレに、白虎はさも可笑しそうに、笑った。
「指揮は別の奴だ。……アイツのお蔭で、日々が楽しくてしょうがねえよ」
「…………」
意味が分からずに呆然としているオレを放置し、白虎は笑い続ける。
弓型に歪められた目には、嗜虐する者の悦びが浮かんでいた。
「追い駆けた奴に、追い落とされる気分はどうだ?」
なぁ?
告げられた言葉に、際限まで目を見開く。
上を見た男の視線に釣られるようにして見上げた先。
さして高くないビルの屋上には、霞がかった月を背負った小柄な影が一つ。
ヒュッと息を呑んだオレを見て、白虎は酷く愉しそうに、喉を鳴らした。
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