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Parallel
3
※志藤静視点です。


 びゅう、と吹き荒ぶ風に、煙草の灰が散る。


 巻き上げられた長い前髪を後ろに流し、咥えていた煙草を右手で掴む。
 吐き出した紫煙は風に流されて、かき消えた。


 強い北風に混じり、血の臭いが流れ込む。


 獲物を探る猟犬のように鼻を鳴らし、オレは視線を細い路地へと向けた。


「……あっちか」


 顎で方向を指示し、行け、と端的に呟く。


 鉄パイプに金属バット、ナックル、角材、スタンガン。種々様々な得物を手に、オレの両脇を屈強な男達が駆け抜けて行った。


「…………」

「副総長、どこまで追いますか」


 一人残っていた男は、血のにおいに闘争心を煽られる事なく、冷静に問うた。


「……いくら≪陰/陽≫とはいえ、四天王は一人も混ざっていない雑魚の集まりだ。潰れるまで追い回せ。叩き潰して、見せしめにしろ」

「了解」


 冷徹に言い放つ。


 だが男は顔色一つ変える事なく、頷き走り出した。
 オレも大概だと思うが、部下も似たり寄ったりの性質を持っている。


「……」


 夜空を見上げながら、緩慢な動作で煙草を再び咥える。
 吸い込んだ煙は程よい苦味の後に、濃い甘さを連れて来た。


 最近変えた銘柄は外国産。
 黒いパッケージに目を引かれ、何となく購入した物だが、どうやら俺には合わないらしい。


 半分ほどの長さになった煙草を、ぴん、と指で弾く。
 アスファルトに転がってもなお、赤い火を灯すソレを靴の裏で踏み躙った。


「あー……怠い」


 首の付け根の筋肉を手で揉み解しながら、一歩踏み出す。
 上着のポケットに手をつっこんで、のろのろと細い路地を目指した。


 どうにもやる気がおきない。


 ある日突然、うちの気紛れな総長は、理由の説明もなく≪陰/陽≫の討伐を命じてきた。端から全部、潰せと。


 元からうちの頭と黒龍の相性は最悪だったが、互いに突っかかる程青くもなく、本気でぶつかり合った事など無かった。
 なのに何故だと、疑問のままに総長の顔を眺めても、表情はまるで読めない。


 無表情ではなく、強い感情を抱いている事は分かるのに、何を考えているかはさっぱり分からなかった。


 愉悦と怒り、高揚と苛立ち。
 いつもは温度の一欠けらも見出せない零下の瞳は、色んな別種の感情が混ざり合ったような酷く複雑な色をしていた。


 常のオレならば、御門の有り得ない様子に興味をかきたてられ、暴こうと躍起になっただろう。
 楽しい事が好きで、面倒は嫌い。どうせ生きるならば、より刺激的な道を進みたいと思っていたから。


 だが今は、事情が違う。


 どうしても欲しいものがある。


 手に入れる為ならば、どんな努力も惜しまないと断言できる程に、焦がれるものがある。


 御門もそれを、追い求めていた筈だ。
 最終的には決別するが、手掛かりを得るまでは付き従うフリをするつもりだったのに。奴は探す事を投げ出し、龍の住処を荒らし始めた。


 もしや探しものは、龍が手に入れているのかとも勘繰った。御門は取り返そうとしているのではと。
 だが、それにしては手段が雑だ。効率が悪過ぎる。


 雑魚を潰して回ったところで、一体何になる。誰が得をするんだ。


 見せしめのように、じわじわと追い詰めるやり口が、龍に効くとは思えない。
 それなら誰に対しての見せしめだ、と問われれば、オレは答えを持っていない訳だが。


 どーでもいい。興味がない。


 そんな事より、もっと。


「…………溜まるなぁ」


 脳裏に浮かんだ白い裸体に、オレは下品な呟きを洩らした。


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あきゅろす。
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