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「じゃあ、あの子はお前の婚約者じゃないんだ」

「婚約者でも恋人でもない。敢えて言うなら、友人の一人だな」

 話し合った結果、お互いの誤解が解けた。
 あんなに悩む原因となった美人の彼女は、どうやら、単に気が合う友人だったらしい。しかも、彼女の好みは年上……それも最低10歳は離れていなければ圏外。
 奥さんと死に別れた教授(42歳)が、現在の彼女の片想いする相手だそうだ。

 悩んで損した、と呟けば、志摩は嬉しそうに笑った。

「妬いてくれたのか?」

「やっ……やいて、なんか……」

 ぼそぼそと力なく否定しても、効果はないと自分でも分かる。
 でもしょうがない。だって、どう考えても妬いていた。
 
 赤くなった顔を隠すために俯く。

「……みつ」

「!? ちょ、おま、何してんの!?」

 突然重みを感じ、弾かれたように顔を上げると、至近距離に志摩の顔があった。
 驚きに目を見開いているオレの太ももを、大きな手がスルリと撫でる。

抵抗しようにも、手は未だ拘束されたまま。下半身も露出されたまま。

 あれ……もしかして、ピンチだったりするのか、コレ……。

「このままじゃ、蜜もオレも、辛いだろう?」

「いや御構いなく!! 解いてくれれば自分で処理するし!」

「そう、つれない事を言うな」

「ふざけ……ぅんあっ!!」

 飄々と言ってのけた男前は、再びオレの後孔に指を埋め込む。
 ローションの滑りを利用し、勢いよく二本呑み込まされ、嬌声めいた悲鳴があがった。
 痛みというより衝撃と不快感に、オレの目尻に溜まっていた涙が、ほろりと頬を滑り落ちた。

 短い呼吸を繰り返すオレのコメカミに、志摩は唇を押し付ける。宥めるような軽いキスが、額や頬、鼻の頭に降り注いだ。

 誤魔化されねえぞ、この野郎。
 百歩、否、万歩譲って、慰め合うならまだ納得出来る。互いに互いのものを、しごけばいいだけの話じゃないか。
 何でオレの尻に指突っ込む必要があるんだよ!!

「っや、ああ、っは、やめ、しま……っ!」

 志摩はオレの中を解すように、バラバラに指を動かす。
 その不快感に耐えきれなくて、拒絶する言葉を繰り返しながら、顔を背ける。

 だが志摩は、そんな微かな抵抗を封じる様に頬を手で包み込む。指先がゆるりと輪郭を辿り、唇にそっと触れる。
 愛しむような、優しい手付きだった。

「みつ」

 甘い声に呼ばれ、顔を上げる。
 生理的な涙にぼやけた視界の中、間近にある志摩の顔が、切なげに歪められた。

「蜜……オレを、拒むな」

 まるで、縋りつくような声だった。
 希う熱を孕んだ瞳に、呆然としたオレが映る。

「まだ、同じ想いじゃなくていい。お前がオレを隣においてくれる限り、いくらでも待てる。……だが、今だけ。今夜だけでいいから、どうかオレのものになって欲しい」

「……志摩」

 ぐ、と後孔に何かが押し当てられる。
 息を詰める前に、熱の塊が体の中へと押し入って来た。

「っひ、ぁ、あああああああっ……!!」

 一気に体を刺し貫かれ、背筋が弓なりに撓った。衝撃に、目の裏で星が散る。
 逃げたくても、かき抱かれて逃れる事も出来ない。

 熱い、痛い、苦しい。
 小さな振動さえ辛くて、息も満足に吸えない。
 さっきまでの指なんて、目じゃない。堪えられずに絶叫が、口から洩れた。

「みつ……っ」

「っひう、あ…あああ」

 ボロボロとガキみたいに泣き出すオレを見て慌てているのか、志摩の焦ったような声が聞こえた。

「痛い、よな……っ、すまない」

 志摩も苦しいのか、途切れ途切れの声で謝罪する。

「すまない、ごめん、蜜、蜜」

 謝るくらいならヤるんじゃねえよ馬鹿!!
 そう叫んで殴りとばしてやりたいけど、出来ない。初めて味わう類の痛みに翻弄され、オレはマトモな言葉も紡げない。
 何処をどうしたら痛みから逃れられるのか、自分の体なのに全く分からなかった。

「みつ」

 ああ、もう。
 そんな馬鹿みたいに何度も呼ぶな。

 大丈夫だから。
 大丈夫じゃないけど大丈夫だから。

 そんな泣きそうな顔するんじゃねえよ、大馬鹿野郎。

「……し、ま」

 情けない顔した志摩に顔を摺り寄せ、額をくっ付ける。
 大きく見開いた志摩の目に、不格好な笑みを浮かべるオレが映った。

ぱちりと、長い睫が瞬く。
 志摩は大きく息を吸いこみ、オレを真っ直ぐに見つめた。

「好きだ」

「!」

 一瞬、呼吸が止まった。
 思わず身を引いたオレを逃がすまいと、抱き寄せられる。鼻の頭が触れあう程、至近距離にある志摩の顔は、見た事もないくらい、真剣そのもの。

「好きだ、蜜」

 熱い吐息が、唇を掠める。ぞくりと背筋に、甘い痺れが走った。

「お前が、世界で一番好きだ」

「…………っ」

 胸が、ぎゅうっと締め付けられるように痛む。
 志摩の目に宿る熱を移されたみたいに、体の熱が急激に上がる。触れた場所から溶け合ってしまいそうだと思った。

「っあ……っ!?」

 志摩のものが、ゆっくりと押し入ってくる。体の力が良い具合に抜けていたのか、痛みは薄れた。
 無痛とはいかないが、耐えられない痛みじゃない。
 ただし、強烈な異物感は拭えず、小さく息を吐き出して不快感を逃がした。

「みつ」

 かなり時間をかけて馴染ませた志摩は、オレを抱き締めて、『全部入ったぞ』と嬉しそうに笑う。
 怒る気力もなく、逆に何か笑えてきた。

 良かったね、とか子供をあやすように言ったら怒るだろうか。

 ほんと、何やってんだろ、オレら。

「蜜、辛くないか?」

 辛くないと思ってんのかね、この阿呆は。
 笑って、首を軽く横に振る。

「お前なら、いいよ」

「っ……!!」

 愕然とした志摩に、オレは笑いがこぼれた。
 何で今更、そんな驚いてんの。

 お前がオレを大切だと思ってくれるように、オレもお前が大切なんだよ。
 一生誰にも捧げる予定なんぞなかったバックバージンをくれてやっても、まあいっかと思える程度には。

 オレもお前が、好きだよ。

「蜜……好きだ」

「うん」

 泣き笑うみたいな顔をして、志摩はオレを抱き締めた。



 そのまま熱情をぶつけるように、揺さぶられ、突かれ、オレはあっさりと意識を手放した。いや、情けないとか言わないで欲しい。
 受け入れる側のダメージは、かなり深刻なんだよ、うん。

 翌日の昼過ぎに目を覚ましたオレが、一番最初に目に映したのは、幸せオーラを振り撒いた男前の笑顔。
 起き上がると途端に襲う激しい全身の痛みに、思わず志摩を睨み付けるが、奴は照れ臭そうな顔で、嬉しそうに笑うだけだ。
 
 明日の昼飯だけで許されるなよ。

 そう、恨みがましく言ったオレに、志摩は幸せそうな顔で頷いた。

「明日といわず、一生、面倒見させて欲しい」

 甘い声音で紡がれた甘い言葉に、オレは呆れ交じりのため息を吐き出した。



 なあ、志摩さんや。


 世界はそれをプロポーズと呼ぶんだぜ。


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あきゅろす。
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