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「…………もう、いい」

 長い沈黙の後、志摩はぼそりと呟く。

「え……?」

 棒立ちになっていたオレが、緩慢な動作で志摩の方を向く。
 しかし彼の顔を覗き込む前に、視界はぐるりと反転した。

「っ!?」

 咄嗟に、息を詰める。どさりと背を受け止めたのは、さっきまで座っていたソファーだ。
 何が起こったのか理解出来ずに硬直していると、志摩はオレの両肩を上から押し付けるように、乗り上げてきた。

 間近に迫る志摩の綺麗な顔を眺めながら、オレは混乱する。
 たぶん、足払いされた。そしてソファーの上に押し倒されている。そこまでは理解出来た。

 でも、理由が全く分からない。

「もういい」

 志摩は、同じ言葉を繰り返す。
 彼の呼気がオレの頬を掠めるくらい、間近に迫る。ぎちり、と肩を掴む指に力をこめ、志摩は笑った。
 酷く投げ遣りな、歪んだ哂い方だった。

 いつも清廉な志摩の瞳が、どろりと昏い水で満たされる。

 後から思えばそれはきっと、絶望と言う名の水だった。

「し、……っ!?」

 いびつな笑いを刻んだ志摩の唇が、彼の名を呼びかけたオレの唇を塞ぐ。
 しとり、と濡れた感触に、目を際限まで見開いた。
 呆然と半開きになっていた唇を、志摩の舌が無遠慮に暴く。顎を押さえた指に上向かされ、深く唇が合わさった。

 思考が停止する。お粗末なオレの脳ミソは、我が身に起きている事柄に、なんら対応出来なかった。
 だってそうだろう。なんで。なんで、今さっきまで口論していた友と。志摩と、オレが、なんで。

 なんで、キスなんか。

「っ……、ぅく、ん」

 数秒遅れで我に返り、拒もうとしても、もう遅い。
 熱い舌が歯列を割り、奥で縮こまるオレの舌を無理矢理絡め取る。敏感な上顎の裏側を執拗に弄られ、思わず犬のような鳴き声が洩れた。
 至近距離にある志摩の目が、ゆるりと細められる。ちゅ、とリップ音をたて、唇が離れた。
荒い息を繰り返すオレを放置し、志摩の手が、目的を持って下に下りた。

「……っ!?」

 カチャカチャと留め具を外す金属音に、オレは真っ青な顔で身を起こした。咄嗟に志摩の腕を掴む。

「なに、して……」

「見て分からないか?」

 志摩は、オレの力なんて無意味だと示すように、ベルトを引き抜いた。
 目的を明確に理解し、肌が総毛立つ。ぞわりと冷たい汗が、背筋を伝い落ちた。

「志摩っ!!」

 止めろと、叫んで手を振りあげる。衝撃と共に、がつん、と音がした。
 志摩は避けなかった。オレに殴られて、赤くなりはじめた頬もそのままに、再び手を動かし始めた。

「止めろ!!志摩っ、止めてくれ!!」

 叫びながらオレは、ソファーの肘掛を掴み、志摩の下から逃れようとした。だが右の足首を掴まれて、力任せに引き摺り戻される。
 背後から胸と腰に腕を回されて、捻じ伏せられた。

「止めない」

「ひっ……!?」

 志摩は右手を、オレのジーンズの中に突っ込んだ。
 下着の中に潜り込んだ節くれだった指が、オレの性器を握り込む。急所を人に掴まれた恐怖、そしてそれが同性の親友の手だという事実がオレを打ちのめす。引き攣った悲鳴が洩れた。

「止めれるわけ、ないだろ。もう遅い、遅いんだよ、蜜」

 志摩は後ろからオレの耳朶を食み、溝に舌を這わせ、穴に滑り込ませる。
くちゅりと生々しい水音と共に直に注ぎ込まれた低音が、鼓膜を震わせた。

「や、め、っ……」

 掴んだまま動かなかった指が、上下に動く。
 もう一方の手まで下りてきて、両手がオレの性器の形を確かめるように、包み込んだ。抵抗して志摩の手を剥がそうとするが、全く動かない。
 性急な動きで強めに擦りあげられて、零れ落ちそうになった声を、必死に殺した。

「ぅ、っあ!!」

 ぐり、と親指が鈴口に食い込み、悲鳴が洩れる。痛みと快感に滲んだ粘液を、竿に塗り付けた。にちゃり、と濡れた音がして、滑りがよくなった志摩の指が、オレのものを更に強く擦る。
 過ぎる感覚にぶるりと身を震わすと、耳元でゴクリと唾を飲み込む音がした。

「……っ」

 はあっ、と熱い吐息が、耳に注ぎ込まれる。
 荒い息遣い。まるで志摩が、興奮しているようだ。そんなわけ、ないのに。

「みつ……みつ……っ」

 うわ言みたいにオレを呼び、志摩の左手がオレのシャツをたくし上げる。なにが楽しいのか、真っ平らな胸を撫で上げ、爪が乳首を軽く引っ掻いた。
 ぴん、と弾き、摘まむ。適度な力でグリと押し潰されれば、下腹部の熱が、ずんと重みを増した。そんな場所が感じるなんて、絶対に認めたくない。

「し、ま、っん」

 下から伸びて来た手がオレの顎を掴み、強引に斜め後ろを向かされた。待ち構えていた志摩は、食い付くように荒く、唇を合わせる。
 無理な体勢で、苦しい。逃れようとすれば、仕置きだとばかりに舌を軽く噛まれた。くぐもった悲鳴をあげる。
すると痛みを与えたのは志摩の筈なのに、今度は癒すように優しく舐められた。

「っあ」

 痛みで敏感になった部分が、快感を貪欲に拾う。
 ぞわりと総毛立つ感覚と共に、押し寄せる快楽。

 閉じられない唇の端から、どちらのものとも判別付かない唾液が伝い落ちる。志摩はそれを追いかけ、オレの顎と首、鎖骨に舌を這わせた。
 

「しま、もう……」

「もう、何。ああ、放っておいたから、辛かったか」

「違っ、あ、っあ」

 オレの言いたい事など分かっているはずなのに、志摩は笑って躱す。再び性器を両手で握られ、否定の言葉は悲鳴に変わった。
 長い指が裏筋を辿り、親指が張り出した笠を擦る。
扱く手の動きがだんだんと早まり、性急に高められた。洩れた悲鳴は唇で塞がれ、執拗に唇を弄られて、酸欠に脳の判断力が低下して行った。

「ゃめっ、ぅむ」

 逃げる唇を志摩が追う。
痺れるような快楽が、腰から下の感覚を奪っていく。己の意志では満足に動かせないのに、与えられる刺激を快感として、貪欲に拾う。正直、気が狂いそうだった。

 心は置いてきぼりのまま、浅ましい体だけが順応していく。
 友だと、親友だと思っていた男に、良い様に弄ばれ、喧嘩の延長線上で獣のように組み敷かれて尚、性欲に溺れる己の体に、吐き気がした。


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