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もっと。[黒凛]


 もっと触れて欲しいって言ったら、貴方はどんな顔するかな。




 うつ伏せでベッドに寝転んだオレは、ぱらぱらと、手元の雑誌のページを捲る。
たまたま開いた場所には、腕時計の特集が組まれていた。
 
「あ、これ格好いいかも」

 深いブルーの文字盤に、シルバーの針のアナログ時計。ベゼルとリューズはシルバーで、ベルトは黒の本皮。

「黒さんに、似合いそう」

 洗練されたデザインの時計を眺めながら、ソレが彼の腕を飾るところを想像してみた。
 うん、かなり良い。凄く良い。

 まだずっと先だけど、誕生日プレゼントの候補に入れておこうかな。
 浮かれながら、肝心のお値段へと視線を向けたオレは、目を丸くする。

「高ぁ!」

 軽く予算オーバーな代物だった。無理だ。一ヶ月やそこらのバイト代で買えるものじゃない。ゼロ一個多くない?
 ぶつぶつと文句をいいつつも、諦めきれずにページの端を折る。似たようなデザインで、もう少しお手頃価格なものは無いものか。
……でも、安物を黒さんに付けさせるのもなぁ。

 悩むオレの上に影が差す。
 ぎしりとベッドが軋んだ音をたてる。背に重みを感じるのと同時に、雑誌の端を持つオレの手に、大きな手が重なった。

「なにを見てるんだ?」

 オレの肩に顎をのせた黒さんは、雑誌を覗き込む。密着した裸の上半身は、風呂上がりのせいか、いつもより熱い。

「黒さん、重い」

「時計か。お前にしちゃ、珍しいな。欲しいのか?」

 オレの抗議を軽くスルーして、黒さんは勝手にページを捲くった。
 
「ううん。格好良いなって見てただけ」

「ふーん。まぁ、お前にはこっちの方が似合うな」

 次ページを指差す。スタイリッシュさを全面に押していたさっきまでのページとは違い、シンプルで実用的な時計が並ぶ。確かに、オレだったらこっちかも。
 クラシカルなデザインのやつ、いいな。ウッド調の文字盤のも可愛い。
 悩むオレの首筋に、ぽつりと水滴が落ちた。

「冷たっ? ちょ、髪濡れてる!」

 タオルで乱雑に拭っただけの黒さんの髪から、雫が伝い落ちている。オレは文句をいいつつも、彼の首から下がっているタオルを引き寄せた。体をひねって、ちょっと強引に、彼の顔を引き寄せる。両手で包み込むと、黒さんは楽しそうに笑った。
 大人びて余裕のあるいつもの笑顔より、少し幼い。クスクス笑う彼の振動が、密着した体から伝わってきた。
ああ、可愛いなあ。好きだなあって。息をするように自然に思う。

 オレの右手に、黒さんの右手が重なる。顔の向きを変えた黒さんは、オレの掌に唇を寄せた。

(あ。スイッチ入った)

 空気が変わった。そう、感覚で分かった。
 家族のような戯れが、色を含んだそれへと変わる。決して早急ではないのに、変化が劇的過ぎて、目眩がした。

 ちゅ、ちゅ、と唇がオレの手を辿る。手首、掌、指先と順に触れ、親指の爪を食んだ。目を伏せた黒さんは、オレの親指を腔内へと招き入れる。ネロリと包み込んだ舌が、指の付け根を愛撫する。
ふ、と思わず息を零せば、黒さんは艶めいた眼差しをオレへと向けた。
 黒曜石のような瞳に、長い睫毛が影を落とす。その目に見つめられていると自覚するだけで、体が沸騰したみたいに一気に熱くなった。

 顔が近付いてくる。頬と頬を摺り寄せてから、唇が触れ合う。ちゅ、ちゅ、と軽い口付けが繰り返されている間に、彼の右手がオレのTシャツの裾から中へと入り込んで来た。大きな掌が、肌の感触を味わうように腹筋を擦る。戯れのようにヘソに指を引っ掛けてから、更に上へ。
 女子のような柔らかさを一切持たない真っ平らな胸を、円を描くように撫でる。慣れない感覚に、思わず体を引きかけるが、黒さんが上から乗っかっているので、逃げ場なんて何処にもなかった。

 人差し指と中指で、胸の突起を優しく挟む。擦る。軽く押し潰す。気持ちいいというより、ムズムズする。居心地が悪いというか、ざわざわするっていうか。とにかく落ち着かない。

 散漫になりはじめたオレの意識を引き戻すみたいに、今度はキスが変わった。軽く接触していただけだった唇が、しっとりと押し付けられる。舌先が、開けろ、とオレの唇をつついた。
 最初にこうされた時は、戸惑って、テンパって。ぎゅうって引き結んでしまったっけ。今も羞恥心は残るけど、数秒躊躇ってから薄く唇を開いた。

すると直ぐ様侵入してきた舌が、歯列を割り開き、更に奥を目指す。
 縮こまっていたオレの舌を、すくい上げて絡める。

「んぅっ」

 苦しさに、くぐもった声が洩れた。
 腰を抱いていた方の手が、宥めるみたいに、ぽんぽんと一定リズムを刻む。

そんな子守りする母親みたいな手つきされても騙されない。苦しいのも、ムズムズするのも、気持ちいいのも全部、黒さんが原因じゃないか。
 そう抗議したいのに、言葉は一切発せない。オレの腔内を我が物顔で蹂躙する、誰かさんの舌のせいで。

「くる、し」

「ほら、息吸え」

 息苦しさに喘いだオレから、黒さんは唇を離した。といっても、ちょっと突き出せば触れてしまうような、僅かな距離だ。くすくすと笑う彼の呼気が、唇を擽る。
 涙目で睨みつつも、オレは必死に呼吸した。空気美味しい。酸素最高。

「溺れてるみたいだな。可愛い、りぃ」

「誰のせい、っん」

 甘く目を細めた黒さんに、オレは食ってかかる。が、再び落ちてきた唇に、抗議の言葉は呼吸ごと食われた。
 
 腰の辺りを彷徨っていた手が、腰骨を撫で、親指と人差し指が器用にボトムのボタンを外す。縁から入り込んできた手が、オレのものの形を確かめるみたいに、ボクサーパンツの上からゆっくりと撫でた。
 弱火でじっくり焼かれるように高められた体は、既に熱を持っている。勃ちかけているものを掌で握り込んだ黒さんは、上下に動かし始める。

 直接的な刺激に体が震えた。
 思わず黒さんに身を寄せ、縋り付く。唇が離され、かわりに、滲んだ涙を舐められた。

「あー……可愛い。食っちまいたい」

 耳元に注ぎ込まれたバリトンは、蜂蜜みたいに甘かった。
 彼の声は凶器だ。低いのに、甘い。行為中の睦言は、愛撫と同等の効果を齎す。当然今も例外ではなく、オレはビクビクと体を震わす事しか出来ない。
 
「んっ」

 ボトムのファスナーを下ろし、次いでボクサーパンツも下ろされる。芯を持ったオレの性器がぷるんと飛び出した。
 ぷっくりと膨らんだ先から、すでに先走りがとろとろと溢れている。

「いい眺め」

 黒さんはカウパーを指で掬い、うっとりと呟く。
 恥ずかしさに、オレは顔を真っ赤に染めた。

「みないで……っ」

自分のはしたなさを見せつけられているようで、酷く居た堪れない。じわりと視界が滲んだ。

「なんで。もっと見せてくれよ」

「やだ、恥ずかしい。みっともない」

「馬ぁ鹿。みっともなくなんてない、可愛だけだ」

 頭を振るオレを、甘く詰る。鼻先に口付けてから、黒さんは再び愛撫を再会させた。
 人差し指と親指で輪っかを作り、竿を擦る。たまに外れた親指が、鈴口を割り、押し開く。もう片方の手が、裏筋を辿り、袋を揉み、ありのとわたりを辿って、後孔へと辿り着く。ヒダを数えるように周囲をそっと撫で、戯れのように押す。

「ひぁ、やあ、らめっ、んんっ」

あまりの気持ちよさに、オレは人語を話せなくなった。媚びるような甘ったるい声が、ひっきりなしに口から洩れる。
なにかがせり上がってくる感覚。ああ、くる。きちゃう。

「い、くっ、いっちゃう、からぁっ」

 だから手を離して、と。力の入らない手で、彼の腕を掴む。
 しかしオレの願いごとを正確に把握しているだろう黒さんは、無慈悲にも手の動きを早くした。

「イけ」

オレの耳を食みながら、命じる。
 その甘やかしと支配欲が混在するような声に、オレの背筋を甘い痺れが駆け上がった。

「っんんぁああああっ」

 背を弓なりに撓らせ、オレは熱を吐き出す。勢い良く飛び出した精液は、黒さんの掌に受け止められてしまった。

 自分の荒い呼吸音が煩い。目の前がチカチカした。心臓がブッ壊れそうな音をたてている。
 弛緩したオレの体を抱き寄せ、黒さんは目尻に唇を寄せた。かわいい、愛してる、と雨あられのような睦言を囁きながら、彼はオレを抱きしめた。


「くろさん……」

「ん? 風呂入る?」

 オレを抱き上げながら、彼は甘く笑う。
 半分くらい、保護者モードに戻ってる。

 そうなんだ。オレ達のエッチって、今のところ、これで終わりなんだよね……。
 オレだけ気持ちよくしてもらって終了。彼は、一回も出してないのに。それってどうなの? セックスっていえる??

 未経験なオレを、たぶんゆっくり慣らしてくれているんだと思う。
 確かに、実際問題、既にイッパイイッパイなんだけどさ。

 それでも、貴方ともっと触れ合いたいって思ってるのは、嘘じゃないよ。

 オレは勇気を振り絞って、彼の首に腕を絡める。顎に口付けて舌を這わせれば、彼の目が大きく見開かれた。
 
「もっと、ちょうだい?」

 精一杯の誘い文句。
 貴方は何点くれるかな。

 獰猛な色を宿す漆黒の瞳に向かい、笑いかける。

 さぁ、本当の交わりを始めようか。

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あきゅろす。
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