Sub 拍手B 日下部視点。 《日下部のねこ。@》 日下部京一は、クールで寡黙な有能会計だ。 破天荒な生徒会メンツの中で、唯一ともいえる常識人で、先生方の信頼も厚く、生徒からも尊敬されている。 少々取っ付きにくい点が、唯一の欠点だが、それさえも魅力になり、遠巻きに憧れる人間は、数知れない。 …そんな彼にも、あまり人には知られていない弱点がある。 それは―――。 にゃあ。 ―ピク。 耳に、かすかに届いた鳴き声に、日下部京一は、ピタリと足を止めた。 ―にゃ。 「………。」 キョロ、と辺りを見回す。 …誰もいないな。 辺りに人影がない事を確認し、私は鳴き声の方向を探る。 にゃあ。 機嫌良さそうな、子猫の声は、植え込みの向こうから聞こえてきた。 に。 「……こら。」 「!」 子猫の鳴き声と一緒に、少年の声がした。 そっと影から覗く。 「邪魔すんなよー。…もうちょっとで読みおわるから、大人しく待ってろ。」 芝生の上に寝転がりながら、ハードカバーの本を読む少年は、苦笑しながら、片手で真っ白な子猫をあやしていた。 指先に戯れる猫を見て、ニコニコ楽しそうに笑っているその少年は――。 「…凛君。」 「!?」 呼び掛けると、凛君はビクリと体を強ばらせた。 つられて、手元の猫も、ササッと凛君の手に隠れる。 ガサッ 姿を現すと、凛君は目を丸くし。 ――次いで、ホゥと息を吐き出した。 「…日下部先輩ですかぁ。」 ビックリしたー。と、凛君が警戒を解いた事に、私は内心、驚く。 私を見て、安堵する者は、殆どいない。 …愛らしい生き物なら、尚更だ。 現に、子猫は、凛君の手のひらに隠れたままだ。 …なのに凛君は、隣に座った私を見上げ、柔らかく笑う。 「見てください!…可愛いでしょう?」 手元の子猫を私に差し出す、警戒心の無いその笑顔に、私も自然と笑う。 若干威嚇している子猫ではなく、凛君の、サラサラな黒髪を、ゆっくり撫でた。 「…ああ。愛らしいな。」 同意を得て、ふわふわと笑う彼には聞こえないように、心の中だけで呟く。 君も、な?…と。 日下部京一。 冷静沈着な有能会計。 彼の弱点は。 ―――愛らしいもの。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |