Sub 拍手G 設楽視点。 《狂い人の恋》 陰と陽の過去話@ 「…好きです。」 「っ!」 オレがそう伝える度に、陰は顔を真っ赤に染める。 恥ずかしそうで、 少し戸惑いながらも嬉しそうで、 でも、一瞬だけ困ったように泣きそうな顔をする君が、 愛しくて、 同じくらい、憎かった。 「好きな人に、自分だけを見てもらうには、どうしたらいいんですか?」 「………珍しい事聞くな。…熱でもあるのか?」 カウンターに座り、頬杖をつきながら、マスターを見ると、珍生物を見るかのように、マジマジと凝視された。 「…失礼ですね。」 「はは。悪い。」 眉間にシワを寄せると、大して悪いと思っていなそうな顔で、軽く謝られる。 「恋は人を変えるって言うが…こうしてみると、お前も人の子なんだなって思っただけだ。」 「…全力で失礼ですね。」 笑顔でそんな事を言われ、益々憮然とするオレに、マスターは苦笑した。 「悪い。コーヒーいれてやっから機嫌なおせ。」 そう言ってマスターは、厨房へと消えた。 「………。」 ふぅ、と息をつく。 「…ねぇ、君。」 「………?」 声をかけられ、見ると、そこには見慣れない女性がいた。 年の頃は、20才手前くらい。 ロングの腰まである黒髪に、華やかな目鼻立ちの中々の美女だ。 訝しげに目を細めるオレに構わず、隣へと座り、オレを覗き込んできた。 「…恋人に自分を見て欲しいなら、いい方法があるわよ?」 「!」 女は、息を飲んだオレに、スルリと腕を回す。 「…浮気すればいい。」 「……浮気?」 オレが繰り返すと、女は、 そう、試すの。と言って笑みを深めた。 「…あの、他の何も写さない、自分だけに向かってくる目は、他では味わえない快感よ。」 うっとりと瞳を眇める女の言葉を、オレは脳内で繰り返す。 他の何も写さない 自分だけに向かってくる、目。 心底オレが、欲しているもの。 ソレが、 手に、入るのか―――? 数日後、陰とのデートの日。 オレは、待ち合わせの公園で、 陰の知り合いの少女を、抱いた。 媚びるような声で、縋りついてくる女には、嫌悪しか感じなかった。 でも、 視界の端に、愕然と立ち尽くす陰を見た瞬間、 狂う程の快感が、身の内を満たした―――。 それからオレは、とり憑かれたように、その行為に没頭する。 幾度も幾度も、 彼の前で、 別の人間を抱いた。 嗚呼、陰、 もっと、 もっとだ。 どうか、オレと同じように オレに溺れて。 息も出来ないくらい、オレに溺れてくれたら、 その時は、全部 目も手も髪も体も心も 全部全部君にあげるから、 どうかオレに染まって、 共に狂って下さい。 ―――ねぇ、僕の たった一人の愛しい人よ。 END [*前へ][次へ#] [戻る] |