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虐めっ子の愛表現。
《朱雀&凛》
「いーん♪」
「………。」
実に楽しそうな声で、後ろから呼び止められたオレは、うろんな目でゆっくり振り返った。
案の定、そこには、至極楽しそうに笑う、赤髪の青年がいた。
猫みたいな釣り上がり気味の瞳を、にっこりと三日月みたいに細めるその顔に、オレは自分の顔が歪むのが分かった。
「何や、君。その顔。」
傷つくわぁ〜、とオーバーリアクション気味に、肩を竦める青年に、オレはますます眉をひそめる。
目上に失礼を承知で断言しよう。
全力で楽しそうな朱雀さんなんて、
ろくなもんじゃない、と。
「…また、変な事企んでるでしょう。」
それは最早、問いかけでは無い。
短い付き合いの中でオレが学んだ事は、
この人は、楽しい事が好きという事と。
でもって、その楽しい事の殆どが、他の人間にとっちゃ、迷惑の類いに分類されるものである事。
「君も大人しそうな顔して、言うなぁ。」
その瞳に、怒りも動揺も、まして傷ついた光も見受けられず、面白そうに笑うばかりだ。
「………で、何用ですか?」
諦めたように、オレが嘆息すると、その言葉を待っていたと言わんばかりに、朱雀さんはオレの前に、何かを突き出した。
「ジャーン♪」
効果音付きで出されたソレは…
「…ケーキ?」
そう。
有名洋菓子店の箱に入った、沢山の種類のケーキ。
「…………。」
………美味しそう。
うん、文句無く旨そうなんだ。
………ケーキは。
でもね、
持ってきた人が問題なんです。
「……いーん?その、胡散臭いモンを見るような目、やめてや。」
「や。実際胡散臭いです。」
間髪入れずに返すと、朱雀さんは目を丸くした。
次いで、拗ねたように口を尖らす。
「……君、ほんまにヒドイ。」
「………だって、」
珍しくも、しゅん、とうなだれてしまった朱雀さんに、オレは焦る。
「…せっかく、陰を喜ばせたいなぁ思うて、買うてきたのに。」
「す、朱雀さん…。」
うぅ…オレは間違ってない筈なのに、
いつも何か企んでるこの人を、オレが警戒するのは当然なのに…
なんだ、この罪悪感。
「…これが、青とか玄武相手だったら、君、素直に受け取るんやろ?」
………うん。
当り前ですよー。
…とは流石に言えません。
だからオレは、
「……いただきます。」
と、覚悟を決めて言った。
……根性なしと罵りたければ、罵るといい。
「どうぞ♪」
その、何ともいい笑顔を見て、オレは思った。
……早まった、と。
じゃあ、コレにしよか、なんて、ウキウキと朱雀さんが取り分けてくれているのを、オレは処刑を待つ囚人のような面持ちで待つ。
もう何でもいい。
「なーに世捨て人みたいな顔しとんの。」
遠い目をしたオレの前に、お皿にちょこん、とのったストロベリーショートが置かれた。
「…美味しそう。」
見た目は。
心の中での呟きが、伝わってるのか伝わってないのか、朱雀さんは楽しそうな顔で、じっとオレを見た。
「いただきます。」
覚悟を決めて、フォークで切り分けたケーキを、口に入れた。
………………ん?
「どうや?」
「………美味しいです。」
釈然としないまま、それでも正直に告げると、猫みたいな笑みが深くなった。
「有名店のやもん♪…味わって食べてや。」
頬杖をついて、ニコニコ笑いながらこちらを見る朱雀さんからは、何の意図も感じられない。
「…………。」
スッキリしない。
でも美味しい。
ぐるぐる考えて、せっかくの美味しいケーキをちゃんと堪能できないのもアホらしいな、とオレは開き直ると、もうそれ以上考えるのはやめた。
満面の笑みを浮かべ、ケーキを頬張るオレに、朱雀さんが吹き出していたけど、この際無視だ。
「……で、何だったんですか?結局。」
「さぁ?」
ニッコリと笑い、それ以上は言わない朱雀さん。
……何食ったんだ、オレ。
謎なまま、体調も悪くなる事は無かったが、オレは、その後1週間うなされたのだった。
……何もされないのが一番怖いというお話です。
いじめっ子の直球愛は、逆に分かり辛い。
(結局、何の罠だったの!?)
(たまには、普通に喜ばせよぅ思ぅただけやったんけどなぁ?)
END
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