Sub チョコと勇気の日。 《陰&陽》 「…あのさ、」 オレが言葉を区切って、隣を見上げると、陽は綺麗な笑みを浮かべてオレを見た。 「はい?」 僅かに陽が首を傾げると、サラリ、と彼の動きに合わせて揺れた白金の髪が光をはじいた。 それだけでない眩しさに、オレは目を細める。 「…………コ、欲しい?」 あまりに小さな呟きになってしまった。 聞こえる筈、無い。 けれど陽は、嬉しそうに翠緑の瞳を弓形に眇め、笑みを形づくる。 「…陰がくれるなら、何でも欲しいです。」 「っ!」 その、普段より甘い声で呟かれた、甘い甘い言葉に、オレは頬に熱が集中していくのを感じる。 「…聞こえてないくせに。」 誤魔化す為に、拗ねたように呟いても、陽は益々笑みを深めるだけだ。 「ごめんなさい、聞こえてませんでした。…でも、言った事は本気ですよ?……だから、もう一回教えて下さいませんか?」 ずるい、と思った。 戦っている時の、常軌を逸した瞳も、愉悦に歪んだ笑みも、オレは知っているのに、 それでも、怖いから、と遠ざけられないのは、 こうして、嬉しそうに笑う陽も、本当の陽だと、知ってるから。 その、少しだけ幼い笑みに、驚きだけでない胸の騒ぎを感じるから。 ……………ああもう!! 陽もだけど、オレも相当、らしくなくない!? どーせ女々しい事を言うなら、言い方くらい男らしくしてやる!! と、妙な吹っ切れ方をしたオレは、ギッと陽を睨んだ。 「……ち、チョコ!いるよな!?」 …………失敗した。 これ、拒否権なくね?? 言い切ってから、あわわ…と慌てふためくオレ。 だが陽は、綺麗な翡翠色の瞳をゆっくりと見開いた。 「………陽、?」 反応の無い陽を、恐る恐る覗き込む。 「………チョコ、って、……バレンタインの、ですか?」 呆然と呟かれた言葉に、オレは、うっ、と言葉を詰まらせた。 今、オレ顔赤いよな。絶対。 「…そ、の……男同士とはいえ、つ、付き合ってるんだし………朱雀さんも、恋人同士ならやって当然って……あ、でもそれだけが理由じゃなくて………ああもう!!」 グルグル考えながらでは考えがまとまらず、正直、自分でも何が言いたいのか良く分からなくなった。 情けなさに泣きたくなったその時、 グイッ、と強めの力で腕を引かれた。 「…!?」 次の瞬間、オレは陽の腕の中で。 痛い位の力で、抱き締められていた。 「………や、陽…?」 「……ごめんなさい。……でも、もう少し、このままでいて…?」 上ずった小さな声で、そう囁かれ、オレは『…うん』と小さく頷いた。 「…なぁ、陽。」 「………はい。」 「……嬉しい?」 「……息も止まりそうな位。」 そう言って陽は、至近距離で、甘く笑った。 オレは陽の服の端を掴みながら、赤い顔を隠すように俯いた。 何の拷問!?って位恥ずかしいし、 らしくないのも、重々承知。 しかも、これからまだ、チョコを買いに行く、って試練もあるんだけどさ、 それでも。 こんな笑顔が見れるなら、そんなに悪いものでも無いのかもしれない。 バレンタインってやつも。 さぁ、 戦いに行きますか! (あの戦場に交ざるのと、自分でつくるの…どっちがより恥ずかしいんだろ…?) END [*前へ][次へ#] [戻る] |