Sub 拍手E 武藤視点。 《武藤と凛の日常 @》 「…あのっ、武藤様!」 廊下を歩いていると、後ろから突然呼び止められた。 「……。」 無言で振り返ると、小柄で女みたいな顔の男が、顔を真っ赤にして立っていた。 「これっ、お弁当なんです!僕がつくったんですけど…よ、よかったら食べ」 「いらねぇ。」 少年が言い終わる前に、言葉を遮る。 ポカン、とした表情で、事態がまだ把握出来ていない少年を残し、オレはさっさとその場を立ち去る。 …最近、ああいった輩が、増えた。 たぶん、オレが昼間に、凛の弁当を奪っているのを見て、勘違いした奴ばっかりなんだろうが。 物凄ぇ、メイワク。 心中で呟き、苛立たしく舌打ちをしながら、屋上へと上がる。 ガチャ 「あ、遅いぞ、武藤ー。」 ドアを開け、屋上へ出た途端、凛は頬を膨らまし、文句を言った。 腹減った、だの言う割に、弁当は開けてすらないのだから、コイツは本当、律儀だと思う。 コイツがいない時、オレらは待ってねぇのに。 因みに西崎はとっくに食い終わって、ペットの緑茶を飲みながら、文庫本を読んでいる。 凛の隣に座ると、凛はオレに割り箸と、蓋に取り分けたハンバーグを渡してきた。 「………。」 無言で、でも楽しそうに笑ってる。 こうやって、凛が、弁当を自主的にオレに寄越す時がたまにある。 それは… 「………どう?」 ハンバーグを無言で口に運び、咀嚼しているオレを、凛はじっと見る。 「……今回は、ヒジキか?」 「……正解。チッ、バレたか。」 悔しそうに、凛は呟く。 コイツはたまに、思い付いたように、オレの苦手な食材を料理に混ぜ込む。 オレが、分からなかったら、コイツ的に、成功らしい。 「…でも、美味ぇ。」 「!」 ブツブツと、改善点を模索している凛に、正直に言うと、凛は目を丸くした。 「………そっか。」 オレの言葉を噛み締めたように、ゆっくりと凛は笑顔になった。 嬉しそうに、頬を染め、笑う。 それを見て、オレは再確認した。 誰かがつくった、手作り弁当が、美味いんじゃない。 誰かが、じゃない。 ―――コイツがつくったから、美味いんだ。 END [*前へ][次へ#] [戻る] |