Sub 拍手D 墨田視点。 《龍の宝物@》 玄武と凛の過去話 「コイツ、今日からお前んとこ、いれてくれ。」 そう言って敬愛する総長が連れて来たのは、彼が拾った子供だった。 「よろしくお願いします。」 少年は、俺の目を見てそう言うと、最近の若者とは思えない綺麗な所作でお辞儀をした。 「総長、良いんですか?」 俺は、総長にそう問う。 少年―『陰』は、少し前からこのチームに出入りしているが、決まって総長はメットを被せたまま、自分の傍らに置いていた。 この人の傍に置いておけば、誰も危害は加えないが、俺の下に置く、という事は、庇護を離れる、という事だ。 荒っぽい事も多々あるだろう。 総長は苦笑しながら、陰の髪を掻き混ぜる。 「…コイツの希望だ。」 …その、髪を撫でる仕草にも、表情にも、心配が見え隠れするのに、総長は、それ以上は言わない。 本当は、こんな所に連れてきたくもないだろう。 聞かなくても分かる。 …この少年は、綺麗すぎる。 顔の美醜では無い。 それこそ、彼は極普通の顔立ちの、何処にでもいそうな少年だ。 けれど。 真っ直ぐに目を見て話す所や、礼儀を弁えている所。 綺麗な所作。 何よりも、その瞳には、俺達のような濁りがない。 ここに集まる奴は、大なり小なり痛みや、苛立ちを抱えている。 その抜けない刺から目を逸らしたり、甘受してしまうと、何れそこから入った毒は体を巡り、心を蝕み、瞳を濁らせる。 この少年とて、抱えている痛みはある筈だ。 総長に拾われた、という境遇だけ見ても、その闇は計り知れない。 ―――けれど。 その瞳は濁っていない。 痛みを痛みとして抱えたまま、前へ進もうとしている。 そこまで考えて、俺は、ああ、と思い至った。 総長もきっと、この瞳を濁らせたく無いのだ。 何処かに閉じ込め、真綿で包み込むように護る事は簡単。 ―――だが、それでは、少年は少年で無くなってしまう。 足掻くからこそ、この魂は輝いているのだ。 傷ついても、前に進もうとする、彼だからこそ。 俺は、総長に向かい、礼をする。 「…お預かりします。」 「おう。」 少年を、そして俺を信頼してくれたこの人に、報えるよう。 そして。 「よろしくな、陰。」 そっと髪を撫でると、陰は目を丸くした。 そして、フワリと、嬉しそうに微笑む。 「…はい。」 そして、真っ直ぐで、一生懸命なこの少年を、俺も見守りたいと思った。 命令でなく、 俺の、意志で。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |