Sub 赤頭巾ちゃんE(END) ポツ、ポツと 子供の頬や額に、涙の雨が降り注ぎます。 一瞬子供は、事態が理解出来ませんでした。 数秒固まった後、ぱくぱくと金魚のように、子供は何度か口を開けて閉じる、を無意味に繰り返します。 子供はテンパっておりました。 表情を変えず、嗚咽も洩らさずに滂沱の涙を流す狼に、どうしたらいいのか分からなくて。 ぐるぐると、一生懸命頭を回転させます。 涙腺が壊れてしまったかのように零れる涙が、痛々しくて、子供は胸を痛めました。 とめどなく溢れ出る雫が、いつか綺麗な瞳を溶かしてしまうんじゃないか、なんてハラハラしてしまいます。 しまいには、無色な涙が、彼の目と同じ透明な黒に変わってしまうのでは、とあり得ない心配までする始末。 「えーと、えーと……うーん」 煙が出そうな位考えても、良い方法が思い付きません。 子供は泣き虫で、誰かに慰められる事はあっても、慰める事なんてした事ありませんでしたから。 「……あ!」 そこまで考えて、子供は妙案を思いつきました。 泣き止むようにと、自分がしてもらった事と同じ事をすればいいんじゃないかと。 子供は自分のポッケを探ります。 ごそごそと探る度に、五番目の兄が詰め込みすぎたクッキーやキャンディが、ぼたぼたと落ちますが、子供は必死過ぎて気付いていません。 「あった!」 漸く見つけたのは、赤い包装紙と銀紙に包まれた、甘い甘いお菓子。 子供が一番大好きな食べ物です。 見つけたそれを、小さな手が一生懸命剥くのを、狼は不思議そうに見つめていました。 現れたのは、茶色い塊。 物知りな狼は、それが菓子で『チョコレート』と呼ばれるものだとは知っていましたが、食べた事はありません。 「はい!」 子供は満面の笑みで、その塊を狼に差し出します。 狼は戸惑い、困惑しながら子供を見ました。 意図なんて、当然分かりません。 けれど、それを拒否したら子供が悲しむ事は理解出来たので、ゆっくりと口を開けました。 子供の体温で溶けかけたソレを口に含むと、甘い味が口内に広がります。 狼が食べた事を見届けた子供は、次いで、小さな両手を狼の頬に添えると、一生懸命伸び上がり、 「……っ、」 チュ、と可愛らしい音をたてて、狼の額にキスを贈りました。 泣き虫な自分に、父が、母が、兄が、してくれるように、 甘いチョコレートと、甘いキス。それから、 「お兄さんは、いいこですね」 頭を撫でる手と、 「だいすき、ですよ」 魔法の、呪文。 「……っ、」 狼は、呼吸さえ忘れたように動きを止めました。 凍りついた狼を溶かすのは、子供の暖かな手と柔らかな笑顔。 くしゃり、と綺麗な顔を歪めた狼の瞳に、新たな涙が溢れました。 「!!?」 涙を止めるおまじないをしたら、更に泣いてしまった狼に、子供は目を丸くしました。 次いで、焦り慌てふためきます。 子供にとっては、絶対涙を止める魔法の呪文だった筈なのに、きかなかったどころか余計に泣かせてしまった事に、パニックを起こしました。 「あ、う、……えーと、うーと……はいっ!」 混乱したまま子供は、ポッケに入っていた菓子を、また狼に差し出します。 メダパニ中の頭で思い浮かんだのは、チョコじゃなくてクッキー!?、でした。 クッキーを差し出された狼は、それも素直に口にしました。その後に続くマシュマロも焼きたてパンも飴も、全部。 それでも狼の涙は止まりません。 どうしよう。にがにがワインもあげるべき?でもにがにがだし…と悩む子供に、狼はゆっくりと顔を近付けました。 チュ、 「……」 子供がしたみたいに、狼は子供の額に口付けました。 まん丸になった子供の瞳に、狼の優しい笑顔が映ります。 子供は知らない事ですが、それは、狼が生まれてから初めて浮かべる幸福の笑顔でした。 涙は零れたまま。頬には子供の指についていたチョコレートが付いてしまっていて。なんて格好付かない。 けれど子供はその笑顔を、今まで見たどんなものより、綺麗だと思いました。 「……ありがとな」 「っ…!!!」 至近距離にある笑顔に、子供の小さな心臓は、大きく跳ねました。 バクバクと早鐘を打つ鼓動に、子供は首をひねります。 それが、子供の初めての恋だと教えてくれる人は、残念ながらいません。 前途多難な、両片想いのこの二人が、これからどう育ってどうなっていくのかは、ご想像にお任せするとして。 一先ず、めでたしめでたし? (兄達/めでたくねぇえええ!!!) (赤頭巾/ふ??) (狼/はじめまして、お義母さん、お義父さん) (父/おやおや、男前) (母/あらあら、イケメン) END [*前へ] [戻る] |