[携帯モード] [URL送信]

Sub
赤頭巾ちゃんC


「お兄さん?」

「っ!」


見上げてくる、純粋な瞳に飢えた狼が映る。
血走った鋭い瞳に、鋭い牙、今にも襲い掛かりそうな、醜い自分の姿に、狼は叫びそうになりました。


今の自分は、どこからどう見ても、退治されるべき化け物だったから。


可愛らしい子供の笑顔が、恐怖に塗り替えられる。
楽しそうな歌声は悲鳴に変わり、自分は拒絶されてしまう。
そんな未来に、狼は怯えました。


森一番強く、賢く美しい獣。誰も何も、黒い狼を脅かす事なんて出来ない。
鋭い牙を持つ熊も、賢い狐も、武器を持った人間だって彼には適わないと言うのに。


最強の狼は、武器も持たない、己の身すら守れない小さな子供に恐怖したのでした。


「見るな……!!」


子供の手を振り払い、狼は己の姿を隠す様に蹲りました。
本当ならば、走って逃げたい。しかし彼には、そんな力さえ残されていませんでした。


傷つけるつもりなんて、欠片もありません。
けれど、そんな言葉が信用される筈が無いと、狼は自嘲気味に笑いました。


こんな、鋭い爪と獰猛な牙を持った獣を、誰が信じると言うんだ。


「……おにいさん、痛い?痛いの?」

「……っ、」


振り払われ、怖かっただろうに、子供は狼の背中に、健気に語り掛けました。
泣きそうな顔で、けれど逃げる事無く。


一目散に逃げ出すと思っていた子供は、逃げるどころか未だ、自分を心配してくれていました。


背中を擦る小さな手に、狼は、目頭が熱くなるのを感じました。けれど涙は零れません。
記憶にある限り、狼は泣いた事なんてなかったから、疾うに枯れはててしまったのでしょう。


「…………いや、腹が減っただけだ」


もう、いい。
狼はそう思いました。


ただし、さっきまでの投げ遣りな気持ちとは違います。


もう、いい。
こんな化け物相手に怯えずに、いてくれるなら。
信じて、心配してくれるのならば。


オレはもう、報われた。


「お腹、ですか?それはたいへんですっ!何か食べなきゃ、」


――ドサリ
子供の小さな体を押し倒し、狼はその体を囲い込む様に手をつきました。


突然の事態について行けず、パチパチと大きな瞳が瞬きます。
そのまあるい瞳に映った狼は、童話の悪い狼の様に、酷く残酷な目で笑いました。


「……おにいさ、」

「お前、旨そうだな」

「……ぼく、ですか?」


優しい子供のおかげで、狼は報われました。
だから、彼は思いました。後、自分が子供の為にしてあげれる事は、




「喰わせろ」


悪役に、なることだけだと。


狼は、鋭い牙を見せつけるように口をあけ、べろり、と舌なめずりをしました。
子供の細い首に、指を絡めます。


大きく瞠られた瞳が、恐怖に染まるまで、もうすぐ。


狼は、泣き出しそうな気持ちを隠し、獰猛に笑います。


なぁ、可愛いお前。


優しい気持ちも、純粋な瞳も、とても愛おしく思うよ。
けれど世界は、とても残酷で厳しい。


不条理で理不尽で、優しいお前には、キツい世界だ。


だからどうか、強くなれ。
疑う事を、覚えて欲しい。




オレはもう、守ってはやれないから。


――どうか。


.

[*前へ][次へ#]

7/9ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!